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シークの証言①

 クリスティア達は申し出のあったシークの話を聞くために、食堂から客間へと移動してきていた。

 もうすぐ追悼式典は終わるのだろう。

 騒がしかった記者達も、クリスティアとディゴリア家の対決を記事にするために、我先にと邸から去っていた。

 すっかり客人の居なくなった客間は、がらんと静まり返っている。


「ディゴリア男爵とシーク様は仲がお悪かったとのことですが理由をお伺いしても?」

「家族には良くあることですよ。祖父はお金持ち、余りあるほど金を持っている。でもそれを自由には使わせない人でした。俺は色々とやりたいことがあって金の援助をして欲しいと申し出たのですが……金が必要ならまず、事業計画書を持ってこいと話しも聞かずに一蹴です。望み通りに計画書を出しても突っぱねられるばかりで、衝突ばっかりでしたよ」


 入り口から見て左手側のソファーに身を預け、本当によくあることだと言わんばかりにシークは思い出すように天井を見つめる。

 向かい側では、クリスティアとヘンディングスがソファーに座っている。

 ヘンディングスは証言者の話しを聞き逃さないようにするためか、胸にしまっていた手帳を取り出してそれに必死にメモを取っていた。


「では男爵を殺したいと思ったことはございますか?」

「そりゃ、計画書を突き返される度に何度も思いましたよ。けど殺してどうなるんですか?どうせ遺言書には俺に遺産はあげるなと書いてるだろうし、金を好きに使えるようになるわけでもない。家族で配分したところで、孫への優先権は下位ですよ」

「まぁ、遺産をあげるなとは……男爵がそのようにおっしゃっられたのですか?」

「えぇ、俺のお金はお前にはびた一文渡さない遺言書からも名前を消しているってね。誕生日の日に言い争いをしてそう言われましたよ……けど蓋を開ければどうです、俺だけではなく皆に遺産は譲らないと、全てあの女に譲るときたもんです。女に騙された祖父に家族を大切に思う気持ちなんて、これっぽっちもなかったんですよ」


 ノーホスに憤った様子で、シークは右手の親指と人差し指に開けた小さな隙間をクリスティアへと示す。


 これが家族への気持ちなのだ。

 1㎝にも満たないこの隙間が、ノーホスの8人の家族に対する仕打ちなのだと言わんばかりに。


「遺言書の内容は事前には知らされていなかったのですか?」

「勿論、知りませんでしたよ。知っていたら祖父が生きていたときに反対しています……あの女に殺されたくなければ考え直せってね」


 憤った興奮を収めるように肩を竦めてみせるシーク。

 知ってさえいれば、アーテという悪女がどういった女で、多くの夫達をどうして殺したのかという理由をノーホスへと切々と語ったことだろう。

 それを聞けば、ノーホスも遺言書のことを少しは考え直したのかもしれない。


「分かりました。食堂ではどちらの席にお座りになられていましたか?」


 ヘンディングスがシークへと差し出したタブレットには一つの長い長方形とそれを囲うように小さな丸い円形が10個描かれている。

 食卓と10脚の椅子を表している簡易的な図形。

 その頂点にある一つの黒く塗りつぶされた円形にはノーホスの名が刻まれていた。

 シークは入り口から一番近い右側に席、ノーボスからは一番遠い席を指し示す。


「入り口側、右側の一番後ろのここです。祖父とは喧嘩をして気まずくてね、パーティーにも遅れて参加しましたし……空いていた席が左か右の端で、あの女が左にいて隣には座りたくなかったので右に座ったんです」


 祝う気持ちより、ノーホスを誑かせたアーテに対する憤りの気持ちのほうが強くてシークは彼女を避けたのだ。

 彼女を女神と称するヘンディングスは、シークのその態度に終始、ムッとした表情を浮かべている。


「では、事件当日のシーク様の行動をお教えください」

「昼頃に祖父と事業の件で言い争いをして、素直に誕生日をお祝うという気分ではなくなったので……邸に居ても鬱屈するだけだと街に行きましたよ。あの女と入れ違いにね。戻ってきたのは確かパーティーが始まって少し経ってからです」

「どちらに行かれていたのですか?」

「あっちこっちフラフラと。馴染みの店が商業街の東通りに多くあるので、そこら辺を巡っていましたよ。買い物をしたり、カフェで食事をしたり……最後はバーで一杯だけ酒を飲んで、気持ちを落ち着かせてから戻って来ました」

「東通りのバーといえば中央通り近くのですよね?良く行くんですか?」

「それなりに。田舎の領地で出来ることはたかが知れているんでね。たまに首都に来たときにはそこに立ち寄って、人脈を広げるようにしているのさ」


 両手を広げて自身の持つ人脈に自信を持っていると胸を張るシークに、その人脈が一体どういったものなのかは分かったものではないと、ヘンディングスが疑いの眼差しを向ける。


「へぇ……でもあまり評判の良くないバーですよね?色んな悪い取引に使われているって噂の……僕もあのバーで知り合った女性から誘われて何度か行きましたけど、その度に高額の支払いをさせられましたよ」

「どういうことかな?俺が訪れるときはいつだって健全なバーだったよ。あぁもしかして、暫く前に言い寄ってきた男を酔いつぶして財布から金を抜き取る女性がいたと聞いたことがあるが……お金を支払うからと財布を預けたりしたのでは?」

「うっ!」

「やっぱり。気を付けないと、見た目だけに騙されているとあなたも祖父のようになりかねない」

「なんだって!アーテはそんな人じゃない!今回の事件だって無実に決まっているんだ!」

「ははっ!既に手遅れのようだ!」


 世間を騒がせている事件だというのに、今まで音沙汰も無かったクリスティアという少女がどうしていきなり事件に興味を持ったのかと思っていのだが……。

 どうやらこの男と関係がありそうだと、シークがノーホスと同じ運命を辿りそうな憐れな恋に落ちるヘンディングスを笑う。


 その嘲りを含めた笑いに、弱々しくも噛みつかんとするヘンディングスが勢いを持ってソファーから身を乗りだすが……その邪魔さに、クリスティアが彼を制するように手を上げる。

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