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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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ルーシーの告白②

「誰だこんな!嘘偽りを!」

「見て下さいませ貴族特権の闇ですって、大変おかしな話ですわ。わたくしどちらかといえば牢屋に入ることを望んでおりますのに」

「そういうことじゃないだろう!?」


 夫人殺しのロレンス卿のご令嬢殺害される!同室に居た疑惑の令嬢は貴族特権で無罪か!?と煽る記事の内容。


 ロレンス卿の事件まで事細かに載っている同紙の内容は、あの夜会に居た者達が見ればその特権で逃げおおせようとしているのがクリスティアであることが分かるだろう。


 まるでクリスティアが犯人であるかのように煽る記事の内容に憤慨するユーリ。

 特権を利用したことは多々あれど自分が捕まることを拒否するようなことはしていないとそこだけが納得いかないと不満げなクリスティアに、もっと感情を高ぶらせるべきところが他にあるだろうとクリスティア以上に憤っているユーリはギャゼを掴み破らんばかりの勢いで握る。


「殿下、どうぞ落ち着いてくださいませ」

「君は落ち着きすぎだ!大体昔からそういうところが気に食わなかった!いつも私とハリーが君の心配ばかりして割を食っていた!幼い頃から続く忌まわしき君のあだ名を知っているか?この世を破滅に導く赤い悪魔だぞ!?天使のような見た目の幼子に騙されるな、その瞳の色は君に消された人々の血を吸い色付いているんだとまことしやかに囁かれているんだぞ!?」

「まぁ、でしたらわたくしは赤子の頃から人を消しその血を吸って育ってきたのですわね」

「そんなわけないだろう!揶揄だ!揶揄!」


 死体を前にしてもそうだったがどうしてそう落ち着いていられるのか。


 自分が大衆紙で殺人犯人だと煽られているのだぞっと興奮するユーリがやいのやいのっとクリスティアの幼い頃からの子供らしからぬ沈着な態度を責める中、ルーシーが紅茶やカップなどをサービスワゴンに乗せて現れる。

 なんの話をしているのか白熱する議論に少し落ち着きのあるハーブティーを入れたほうが良いだろうとルーシーはいくつか持ってきていた紅茶の葉をブレンドしティーポットへ入れるとホーローポットのお湯を注ぐ。


 ユーリはクリスティアに対しての態度がいつも悪い。


 元来素直でない性格だと聞いてはいるので仕方のないことなのかもしれないが、幼なじみでもあり婚約者でもあるからといってクリスティアに対してどんな態度を取ってもなにを言っても許されると思っていると不満と羨ましさ、反感をルーシーは持つ。

 なのでそれを現すようにルーシーはいつもユーリには少し苦い紅茶を入れて意趣返しをしている。

 今日も今日とていつもよりまた少し濃くて苦い紅茶を入れたカップを眉一つ動かさず話の邪魔にはならぬようユーリの前へと持っていく。

 いつかその苦さに気付きクリスティアへの態度を改めろという気持ちを込めた茶色の液体を見つめていたルーシーはフッと机に広げられた皺だらけの大衆紙を視界に入れる。


 そういえばギャゼの号外が来ていたのをマースが慌てて何処かへ持って行っていた。


 アーサーは貴族院で仕事中なので何処へ持っていったのかは分からないが、大文字で出た見出しと目に付いた内容を紅茶をサーブしながらスラスラと読んだルーシーは銀盆に乗せていたカップを音を立ててユーリの前へと置く。


 いつも静かにサーブするルーシーが珍しい。


 興奮してがなっているユーリは気付かなかったようだが、日頃から使用人達に愛情を持って接しているクリスティアはその些細な音に気付きどうかしたのかとルーシーへと視線を向ければ、ルーシーは真っ青になった顔で銀盆を持つ手を震わせている。


「ク、クリスティー様……!」

「ルーシー、どうしたの?」


 震える声を上げて己の主人を見つめるルーシー。

 いつもと同じ、落ち着いて気品のあるルーシーの好きな優雅な微笑みを浮かべたクリスティアを見て……そしてニールの眉に皺を寄せた険しい顔とラックの口を開いた唖然とした顔を見たルーシーは銀盆をそのまま机へと置く。


 常日頃から主人であるクリスティアは牢屋に入りたいと切に望んでいた。


 侍女としてはその願いを叶えて差し上げたい気持ちは十二分にあった。


 ましてや敬愛するクリスティアの願いだ。


 どうにかして入れられる方法はないかと考えたことが無いわけでは無いが願い事が願い事のなので今だ叶ってはいない。


 例え叶えることが出来るのだとしても、もっと静かに穏便に隠れるようにして誰にも知られることなくアトラクション感覚で入れるよう手配をしようと考えていたのに……。

 主人が望むことだからといってもこんな大衆紙に載るような不名誉な形で願いが叶うことは許されないとルーシーは覚悟を決めたようにスッと背筋を伸ばし真っ直ぐ立ち上がるとなにを思ったのかニール達に向けて急に両膝を付けて跪く。

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