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円卓の真実⑤

「これはドレット様がガレス様を殺害しなければ始まらなかったこと、ウエイン様がランス様を殺そうと毒を買わなければ考えつかなかったこと、アルスト様がエレイン様との婚約を強行しなければ巻き込まれなかったこと、ヴィネア様がランス様を手に入れたいと欲を抱かなければ憎まれなかったこと、誰かが強い理性と良心を持ってこの殺人を良しとしなければ起こらなかった事件です!」


 誰一人として罪のない者などいない!

 欲に溺れ、憎む相手のワイングラスへと毒薬を注いだ時点でこの円卓の殺人は全員が犯人であり、全員が裁かれるべき罪人なのだ!


 告げるクリスティアの強い言葉に、生きている者を恨み、死している者を憎んでいた者達はしんっと静まり返る。

 罪のない者は誰一人としてこの場には居ない……それが紛れもない事実だと理解しているのだ。


「カーラ様。これは誰かが罪を償うべき事件ではありません。皆は皆の欲望によって亡くなり、そしてその全ての罪をランス様が背負うために自らの命を絶ったのです。神の信徒として……彼らの罪を許すために、彼らと自らの罪を背負って彼一人が地獄へと旅立った……それが彼が死した理由です」


 エレインが原因なのではない。

 彼は彼自身のために皆が持ついつ弾けるか分からない殺意を弾けさせそして……自らの命を絶ったのだ。


「この円卓に関わった者達への恨みや憎しみといった感情は全て捨て去るべきです。全員に罪がある以上、それらは全て意味のないことです。残された者達がすべきことはただ、自らの中に残る良き思い出と共に亡くなった者達の魂が救われるようにと祈りを捧げることだけです」


 クリスティアによって暴かれた事実。

 罪を犯した者達の事実。

 紛れもないその罪深き事実を受け入れるために、ロージはすっかり冷めたコーヒーを見つめると、徐にそれを飲み干す。


「馬鹿な息子だ」


 苦いコーヒーの味を胃へと流し込み、馬鹿な息子を想いロージは眉間に皺を寄せる。


「本当に愚かだ」


 続くようにコーヒーを一口飲み込み、愚かな弟を想いカイウスは深い溜息を吐く。


「憐れなお姉様」


 次いでフィアは、憐れな姉を想い流した涙の落ちたコーヒーを飲む。


「…………」


 そしてカーラは……カップの水面に浮かぶ己の悲しげな表情を見つめ、そのお茶を飲み干すと隣のクリスティアとロージの手を取る。

 その握られた掌の温もりを受け入れ、ロージも隣のフィアの手を握り、フィアもカイウスの手を握る。

 そして最後にカイウスもクリスティアの手を握る。


「どうぞ皆様の死に安息が訪れますように……心から祈ります。心から……」


 カーラの言葉に一同は静かに瞼を閉じる。


 全ては愚かな者達の饗宴だったのだ。

 愚かな者達の欲望が招いた惨劇だったのだ。


 今、その幕が漸く下りる。


 皆の死に安息が訪れるように。

 地獄へと旅立った者の罪がどうか救われますように。

 新たな円卓で切に願う祈りを捧げる。


 事実の暴かれた罪深い円卓は今日、漸くその罪を洗い流されるのだ。

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