円卓の真実③
「ランス様は、悩まれたことでしょう。ドレッド様を追及しても彼はしらを切るでしょうし、事故と処理された事件を殺人へと告発するには証拠が足りません。ですがこのままではウエイン様は誤解をしたままランス様を害そうとどんな手段でも使ってくる、もし不運にも自分が死ねば……この先のエレイン様の不幸は目に見えて分かる事実でした、彼女は望まぬ婚約をしていたからです。それにドレッド様も彼女を諦めることはないでしょう。一度、道を踏み外せばきっと二度目はもっと簡単に踏み外すと。なので彼は考えたのです。考えた結果、自らの命と引き替えに欲深き者達を罰することにしたのです」
深く眉間に皺を寄せたのはカイウスだった。
弟の婚約がまさかそんなことになるとは思っていなかったのだ。
「ランス様が恐らく最初に接触したのはウエイン様でしたのでしょう。自分が殺されたら意味はありませんから。実は事故の真実を知った、ドレット様が薬を使って馬を暴れさせたようだ、自分が乗った馬の様子もおかしかったし彼の友人から証言は得ている。ランス様より告げられた事実にウエイン様は驚いたことでしょう。復讐しようとしていた相手が違ったのですから」
「ウエインは怒り狂っただろうな」
そうして怒りの矛先はランスからドレットへと向かった。
「次にドレット様にはエレイン様が望まぬ婚約をさせられている、アルスト様さえ居なければあなたと恋仲になって欲しかったとでもおっしゃられたのでしょう。もしアルスト様になにかが……不幸ななにかが起きて婚約が無かったものとなれば二人の仲を取り持つとも。彼にとってはまたとない機会です。家督を継ぐ兄も認めたとなればエレイン様は必ず自分のモノになるはずですから。一度外れた箍は二度目もいとも簡単に外れることとなったのです。彼はそうして、毒薬を手に入れたのです」
クリスティアは自身の席へと小瓶を置く。
彼女はドレッドの代わりなのだ。
「そして次にアルスト様。エレイン様との不当な婚約に不満を持っていたランス様は過去の恋人であるヴィネア様がエレイン様に接触しようとしていると不安を煽ったのでしょう。ヴィネア様の激情は誰もが知る事実でした。エレイン様に危害を加えそうなほど怒っている、そんな相手と縁が切れていないだなんて……次期当主として結婚を許すことはできないとおっしゃられたのかもしれません。ランス様がアルスト様にヴィネア様をどうにかしろとおっしゃっていたのをカイウス卿はお聞きなられたのでしょう?」
「あぁ、確かに聞いている」
「そうして追い詰められたアルスト様は毒薬を手に入れたのです」
頷いたカイウスの前にクリスティアは小瓶を置く。
「最後にヴィネア様。ランス様が彼女を円卓に加えたのは彼女が自身の将来を奪ったからでしょう。神官になるという夢を彼の両親へと密告し、その夢を絶ったのは彼女でした。彼女が本当に愛していたのはランス様でしたから間違った方法で彼を繋ぎ止めようとなさったのです。彼女に対しては個人的な恨みが大きかったのかもしれません。まずランス様は彼女の主演舞台の座を奪い自分と結婚するしか将来の道はないと思い込ませました。そしてランス様からガレス様の件でウエイン様に脅されている、もしかすると殺されるかもしれないと、彼女に助けを求め不安を煽ったのです。ヴィネア様は愛する人を殺されるかもしれないと恐怖心から毒薬を手に入れたのです」
「あぁ、お姉様!」
「毒薬を買った順番は皆を懐柔した順番でもあるのでしょう。恐らく毒薬の購入にはランス様からの誘導があったはずです、同じ場所で同じ毒を買うように仕向けるために。彼は実に用意周到に計画を練ったのです」
最後にフィアの前へと置かれた小瓶。
赤く揺蕩う小瓶の中のワインは今、誰の目にも毒薬に見えていた。
「これは……つまり、どういうことだお嬢ちゃん?」
「……自殺する理由はないが、互いを殺す理由はあるということですねご息女?」
「えぇ、そうですカイウス卿」
自身の席に座り頷いたクリスティア。
考えたくはない事実がそこにはある。
考えなければならない事実が……。
息が止まりそうなほどの緊張感の漂う静寂は皆が状況を整理する時間だ。
そしてその結果、誰の頭の中にも恐ろしい事実が浮かんだところで……全てを暴いたクリスティアは再び口を開く。
「これは円卓の自殺ではなく、円卓の殺人だったのです。ウエイン様は復讐心からドレット様を殺し、ドレット様は嫉妬心からアルスト様を殺した、そしてアルスト様は憎悪心からヴィネア様を殺し、ヴィネア様は恋情心からウエイン様を殺した。わたくしが先程、隣の者達にコーヒーを配るように指示した方法を持って。皆はワインを酌み交わし、自らの命を縮めた……これが事件の真相です」
まさかっと皆が恐怖の中で、注がれたコーヒーカップを見る。
そうだ、隣には恨みを抱えた者が座っている。
カイウスの隣にはフィア、フィアの隣にはロージ、ロージの向かいにはクリスティア。
誰も思いもしなかっただろう。
相手を殺すことばかりを考えて自分が殺される側に回るなんて想像すらしていなかったはずだ。
機は熟したと、それぞれがそれぞれに恨む相手のワインへと毒を盛ったのだ!




