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円卓の真実②

「ではまず皆の死の理由を語る前にこの事件の真相を語らねばなりません。何故皆が円卓に死したのか、何故死なねばならなかったのか……それは全て勘違いから始まったのです」

「……真相?真相はもう分かっていることでしょう。自殺という真相が。一体なんの勘違いがあって弟は自殺したと?」


 カイウスは不愉快だと言わんばかりに眉根を寄せるが、クリスティアはそれが不愉快であったとしても事実だというように頷く。


「皆様の知らない真相があるのですカイウス卿。この事件の始まりは彼らの友人であるガレス・オクニール、彼の死から始まりました」

「おい、うちの末っ子はウエインが死ぬ前に死んでるんだぞ。一体なんの関係があるっていうんだ」


 今度はロージが厳めしい顔を更に険しくして、愉快ではないクリスティアの言葉に語気を強める。


「確かに。皆の友人であるガレス様は5人が円卓で死する半年前に乗っていた馬が暴れ、不運にも崖下へと転落死をなさいました。事故として処理されたそれは……実際は故意の殺人だったのです」

「なに!?」


 ロージが驚き瞼を見開く。


 目撃者もあり、警察も疑いようのない事故だったと言っていた!

 なのにそれが殺人だったと、この少女は一体なんの冗談を言っているのか!

 そんな馬鹿な話はない!


 だがもしそれが事実だとするのならば……一人の人物にロージの疑いが向かう。


「じゃあまさか本当にトロワの坊ちゃんが!」

「いいえ、違いますロージ様。ランス様はこの事件に関わってはおりません。むしろ彼も被害者となり得たのです。その事実として事故を伝えに急ぎ別荘へと戻られたランス様の乗っていた馬が興奮し、暴れたという証言がございます。これはランス様もガレス様と同様に崖下へと落ちる可能性があったことを示唆しているのです。馬が暴れた場所が崖のある道であったか、別荘の前であったか、彼らの命運が分かれたのはその違いだったのです」


 それはトーマス・ヴェルグが証言したことだ。

 エレインはランスの乗っていた馬に乗ろうとしたが暴れて乗ることは出来なかったと。

 これがガレスの時と同様に崖の近くであったのならば、ランスも命を落としていたはずであった。


「お二人が乗る馬には興奮剤が仕込まれていたのです。そしてそれはドレット・モスマンが準備したものでした。彼の知り合いから証言は得ております。ドレッド様の当時の仕事は競馬でのいかさま。馬に興奮剤を仕込ませて騎手を落とすのが彼の常套手段であったと」

「ドレット・モスマンが?一体何故だ!?」

「ドレット様はガレス様とランス様の妹であるエレイン様との仲を疑っておられたのです。いえ、ランス様以外の全ての者達がガレス様とエレイン様は恋人同士だと思っておりました。この勘違いがまさに、最初の悲劇の始まりだったのです……ドレット様はエレイン様を愛しておりました、それはどんな手段を使ってでも彼女を手に入れたいと望むほどに強く深く」


 その恋情心はドレッドが凶行に手を染めるのに大きな理由となった。

 嫉妬心とは時に恐ろしく残酷に、友人との繋がりを切り裂く一番の理由になり得るのだから。


「恐らくドレット様のお考えとしてはガレス様とランス様がお二人共、犠牲になるのが理想でしたのでしょう。そして嘆き悲しむエレイン様をお慰めになるつもりだったのかもしれません。彼らを助けようとしたヒーローにでもなるつもりだったのかしら。まぁ、ランス様が生き残ってしまいましたので上手くはいきませんでしたが、彼にとって一番死して欲しかった恋敵は死んだのです。きっと結果には満足をなさったはずですわ」


 ガレスの死によって恋敵が減り、ドレッドは一人ほくそ笑んだことだろう。


 ロージはその様を思い浮かべて悔しげに拳を握り締める。

 そんなことも知らずにランスを責めるウエインを何度叱りつけただろうか。

 事故だったのだと、あの子はただ運が悪かったのだと。


 ガレスの死をもっと調べれば良かったと考えずにはいられない。

 もっと調べれば……ウエインの死は無かったのかもしれないと。


「そしてガレス様を亡くして深く嘆き悲しんだのはお兄様であるウエイン様でした。トロワ家の別荘で起きた事故、トロワ家の馬が暴れたことによって起きた事故。ウエイン様は元々トロワ家に良い感情を持っていませんでしたから、ランス様を憎み必ず復讐すると誓うのは必然でしたのでしょう」


 憎しみは体の奥深くまで根を張りウエインを突き動かした。

 最愛なる弟を亡くした彼はもう、止まることが出来なかったのだ。


「そして彼は考えたのです。ランス様を殺すにどうすればいいのか、どうすればガレス様の復讐が果たせるのか。考えた結果……彼は毒薬を手に入れたのです」


 そういうと立ち上がったクリスティアはロージの前に赤い液体を入れた小さな瓶を置く。

 これは毒薬だ。

 ウエインがランスを殺そうと思い手に入れた毒薬。

 ロージの喉がゴクリと鳴り、円卓の場に緊張感が走る。


「ご安心ください、こちらの中身はただのワインですわ。飲んでも死にません」


 皆の緊張感を感じ取って笑みを浮かべたクリスティアは安心させるように中身が何かを告げる。

 その毒薬ではないという言葉に、場の緊張感は一気に和らぐ。


「しかしながらご存じの通り、毒薬はランス様に使われることはごさいませんでした。ランス様はある友人からの忠告を得て知ってしまったのです、ウエイン様が自分を殺そうとしているという事実を……」


 それはヴィネアの日記から伺いしれたことであり、ロッドからの忠告からも推測出来た。


「そして同時期に、ランス様はガレス様がドレット様によって殺されたことを知ったのです」


 ルフによってもたらされた情報はランスにとって衝撃の事実であったであろう。

 友人だと思っていた者の裏切りによって親友が死に、そしてそれが……妹への間違った恋情が原因であったと彼は知ってしまったのだ。

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