円卓の真実①
「本日はお忙しい中、お集まりいただきまして感謝いたします皆様」
とあるレストランの個室。
ランポール家を示す彼岸花の封蝋印の押された仰々しい招待状を受け取り集まった5名の人物達は、忌まわしき記憶を呼び起こさせる円卓の場に、苛立ったり、不安がったりしながらそれぞれ名札の書かれた席に座している。
集まった皆の顔を見回し、徐に立ち上がったクリスティアは皆の参加を歓迎するために頭を垂れる。
彼女の隣にはアルスト・サンドスの兄であるカイウス・サンドス。
その隣にはヴィネア・レグラスの妹であるフィア・アライン。
そしてウエイン・オクニールの父であるロージ・オクニール。
最後にランス・トロワの姪御であるカーラ・キャメロが座っていた。
カーラの後ろにはラッドが控えており、教会で伝えたクリスティアの忠告によってしっかりと二人で話し合ったのだろう。
カーラの肩の上で握りあった二つの手は深い絆で結ばれている。
「うちのウエインが何故死んだのか分かったという手紙を貰ったんだ。来ないわけにはいかんだろう」
「今更、弟の件をほじくり返してなんの意味があるのかは分かりませんが……こちらが知らないわけにはいかない理由があるのでしょう」
「姉の件で、理由を知ることの出来るこの席へと参加させていただけたことを感謝いたします」
「本当にお分かりになられたのでしょうか?伯父様が何故自殺をしたのか、本当に……」
「えぇ、全てこの灰色の脳細胞が解き明かしました。まずは皆様には上等のコーヒーを準備いたしましたのでお楽しみください。そうだわ、折角の集まりですからカップへのサーブは侍女ではなくお隣の方がいたしましょう。そのほうがお互いに仲良くなれる気がいたしますでしょう?」
純粋なのか鈍感なのか分からないが、互いに良い感情を持っているとはいえないこの集まり。
仲良くなれるはずないだろうと一同から呆れた空気が流れる。
だがこの中で一番に身分が高いのは紛れもなく彼女なのだ。
そして知りたいと願っている事実を知っているのもまた彼女。
嫌だとは言い難い。
「カーラ様はお体のことがございますからコーヒーではなくタンポポ茶をご用意しております、侍女からお受け取りください。ルーシー、同じ物をラッド様にもお渡しして」
「畏まりました」
「ではまずはカイウス卿から。本当に良いコーヒーですのでお楽しみになって。さぁ、次はお隣にお回しください」
アリアドネからコーヒーポットを受け取ったクリスティアはカイウスのカップにコーヒーを注ぐとポットを彼に渡す。
妙な趣向だと思いながらもカイウスはポットを受け取り、隣のフィアのカップにコーヒーを注ぐとそのポットをフィアへと渡す。
そしてフィアはロージに、ロージはクリスティアにと一周回ったところでポットはアリアドネへと返される。
部屋に充満するコーヒーの香りは確かに、良い物であることが分かる。
「あの、ありがとうございますクリスティー様。ラッドとのこと……」
「いいえ、沈黙はときに互いの不安を煽る凶器になると知っていただけのことです。わたくしの口から告げてしまったことには少し申し訳なさはございますが、お二人を見るに十分なお話し合いが出来たようなので安心いたしました」
ポットが回っている間に自らのお腹に手を当てお礼を口にしたカーラの柔らかい表情と同じように、表情を和らげながら頭を垂れたラッド。
二人の間で良い話し合いが出来たことを微笑みを持って喜んだクリスティアはルーシーがカーラのカップにお茶を入れたのを見届けて、本題の話を始める。
ラッドは円卓から外れた後ろの席で成り行きを見守る。




