ルーシーの告白①
それからユーリとクリスティアが少し早めの昼食を終え、図書室でお互い自由気ままに本を読んだり窓際の席でお茶を飲んだりと思い思いの時間を過ごしていた昼下がり。
ノックと共に黒いワンピースに白いエプロンのメイド服に身を包み赤毛の髪を後ろで一つのお団子にしたクリスティア付きの侍女であるルーシーがくすんだ紫の瞳を柔和に細めて、窓際の椅子に座って本を読んでいたクリスティアへと静かに歩み寄る。
「クリスティー様、対人警察のニール・グラド様とラック・へイルズ様がお目通りを希望しておりますので客室でお待ち頂いております」
「あら、ありがとうルーシー」
「ニールが来たのか?」
「えぇ」
丁度読書にも飽きてきた頃だ。
待望の対人警察が来たとあってわくわくと期待を胸に、表情に浮かべたクリスティアは読んでいた本を閉じるといそいそと立ち上がる。
それに釣られて前に座っていたユーリも飲んでいた紅茶のカップを置いて立ち上がる。
「わたくしだけで大丈夫ですわ殿下」
「あぁそうかっと言って送り出すとでも思っているのか。私は君の言うお目付役だぞ、共に行くに決まっているだろう」
心底お邪魔虫だという淑女らしからぬ渋い顔をクリスティアにされるがそんなものは見て見ぬ振りだ。
拒否は一切受け付けないと腕を差し出し掴むよう促したユーリにクリスティアは渋々その腕に自分の腕を絡ませて共に応接室へと向かう。
「お待たせいたしましたわ、観念してわたくしをお捕まえになりにいらしたのかしら?」
ルーシーに扉を開いてもらい中にユーリと共に入ったクリスティアがソファーに座るニールとラックの姿を見て開口一番、己の処遇の可否を問う。
行くなら早々に留置場へと逸る胸のときめきを押さえきれないクリスティアの勢いにギロリと、冗談を受け付けない険悪な眼差しをニールはクリスティアへと向ける。
その表情にあらっとクリスティアは頭を横に傾ける。
「どうかなさいましたの?」
「今日は一日外に出てないだろうな?」
「まぁ、怖い顔をなさってどうしたのでしょう?えぇ外出はしておしませんわ。証人が必要なのでしたらこちらにこれ以上無いという証人がおりますけれども」
「クリスティアは今朝から一切外出をしていないし私と共に居た。なにかあったのか?」
「由々しき事態が起きたんですクリスティー様!」
眉に皺を寄せた険しい表情のニールへ、白々しいクリスティアの怖がり。
証人として出廷したユーリの証言に嘘偽りはないと信じたニールが少しばかり表情を柔らかくすれば嘆いた声を上げたラックが手に持っていた紙を机の上へと広げる。
それはギャゼという大衆紙であり、貴族はあまり購読しない庶民向けの新聞だ。
内容としてはどこそこの伯爵夫人がどこそこの劇場俳優の元へ頻繁に訪れているだの、某男爵令嬢は婚姻適齢期だというのにお相手が見付からないのは令嬢にとある問題があるからだとかだの。
雨が少なかった今年は野菜の育成に影響が出ているだ、どこそこの地区の誰それのお悔やみなどなど。
貴族に関しては庶民が喜びそうなスキャンダルネタをあることないこと誇大に書き立て、庶民に密接した内容に関しては本当に必要な情報を発信し値段も手頃なので平民は皆、好んで購読している。
とはいえクリスティアはラビュリントスで発行されている新聞は地方紙まで全て定期購読しているのでギャゼも当然購読しているはずなのだが。
朝刊にはニールが険悪な態度を取るような内容は載っていなかったはずだとクリスティアが何事かと向かいのソファーにユーリと共に座り見ればどうやらそれは朝刊ではなく昼頃に臨時で発行されたものらしく。
右上に号外と載ったそれにクリスティアもユーリも内容へと視線を落とす。
「まぁ」
「これは!」
目に付く大文字を読んだ瞬間、感嘆の声を上げるクリスティアと険のある声を上げるユーリ。
正反対の反応示す二人が釘付けになったギャゼにはデカデカと、
『疑惑の令嬢が殺人の容疑者か!貴族特権の深い闇!』
とセンセーショナルなタイトルが踊り出していた。