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ランス・トロワについて④

 親友なるロッド・キャメロ様


 この手紙が届く頃には私の訃報がエレインよりもたらされていることだと思います。

 このような結末になってしまったことに、きっとあなたは酷く憤慨し、落胆していることでしょう。

 ガレスの死を慰め、乗り越えようと励ましてくれたあなたには大変申し訳なく思っています。

 しかしながら私は神の信徒として、憐れにも死へと向かう者達の罪を代わりに背負わなければなりません。

 いえ、結局のところ皆の死は私の責任であり、私の罪でもあるのです。

 私はこの罪により神の元へと行くことはないでしょう。

 安寧の地からは遠く離れた場所へとこの身を落とし、自らに罰を与えるつもりです。

 ロッド様。

 厚かましいお願いではございますがこのような形で一人、残されることとなるエレインの側にどうか居てやってください。

 私が死ねばエレインを守る者が居なくなります。

 私達の両親はお世辞にも良い両親というわけではありません。

 あの子の気持ちなど考えもせずにきっと、自分達の益となる相手をあの子にあてがうことでしょう。

 あの子は自由であるべきです。

 私のように家門に縛られず、自由であるべきなのです。

 どうか彼女を守る役目をロッド様、あなたに託したいのです。

 私の死を嘆き、悲しむエレインを気遣ってやってください。

 そして幸せにしてあげてください。

 エレインは心の底からあなたを愛しております。

 あなたが想像し、躊躇う苦労などエレインは厭わないでしょう。

 どうかこれを最後の願いとお聞き届けてくださいますと、自ら死を選ぶこととなった私の魂は幾分か救われるはずです。

 そしてもし、この死で警察の皆様が混乱し、罪なき者に罰をお与えになるようなことになりそうであったなら、この全ての死は結局のところ自殺であることの証明としてこの遺書を警察の皆様へとお見せください。

 皆を救わなかった責任は全てこのランス・トロワにあるのです。

 どうか、切に宜しくお願いいたします。


 ロッド・キャメロを信頼して、ランス・トロワより。


「この彼らの罪とは一体なんのことなのでしょう?ランス様が背負った彼らの罪とは……」

「聖書では自殺は最大の罪ですからそのことだと思います。彼は本当に敬虔なる信徒でしたから……自殺した皆の罪を自らが共に死ぬことによって許したのでしょう。彼らが神の元へと迷わずに行けるように、ランスくんは彼らの罪を背負い一人で地獄へと落ちたのです」


 ロッドは俯き、悲しげに瞼を伏せる。


「この手紙を受け取ったとき、実は嫌な想像をしたのです。ランスくんが皆を殺したのではないかと……ウエインさんは彼を脅していましたし、エレインの婚約者は……それほど良い人ではなかったそうですから。だから警察にこの遺書を持っていくことを最初は躊躇いました。ですが新聞記事でウエイターの方が随分と非難されていて、私はこの遺書を警察へと持って行くしかなかったのです。そしてそこで毒物はそれぞれがそれぞれで購入したのだと聞き……間違った想像だと安堵したのです」

「もし、ランス様がご想像の通りのことをなさっていたらロッド様はどうなさったのですか?」


 クリスティアの問いにロッドは愚問だというように柔らかく微笑む。


「なにも変わりませんよ。ランスくんは孤児院への診療を手伝ってくれるほどに優しく妹思いの青年であり、エレインは私が唯一、愛する人ですから。エレインの耳に悪い醜聞が届く前に、もっと遠く……事件の知らせすら届かない遠くの場所へと駆け落ちをしたくらいです」


 ランスがエレインの幸せを願った優しい兄であることは確かで、その幸せにするという使命をロッドは受け継いだのだ。

 その答えに満足げに微笑みを返したクリスティアは預かっていた遺書を返す。


「ではロッド様は、この遺書からランス様の自殺はエレイン様と関係のないことだと確信しておりますか?」

「分かりません。分かりませんが……エレインに理由があったとしてもそれを原因にはしなかったはずです。彼はいつだって自分の行動の責任を自分自身で取っていましたから……だからカーラにもそう伝えるつもりです。あの子にはあの子の人生が、そしてラッドくんとの未来があるはずです」


 カーラが背負うべきことではないと、誰もそんなことは望んでいないと伝えるつもりだと強く頷いたロッドに、クリスティアも同意するように強く頷いたのだった。

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