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日記について②

「アリアドネさんはガレス様のなにが可哀想だったのだと思いますか?」

「エレインとアルストの婚約のことじゃないの?ほらガレスはエレインと付き合ってたんだし……自分の意思とは関係ないにしてもすぐに新しい婚約者を見付けるなんて軽薄だと思われても仕方ないから。しかもそれが自分の元彼だったら……正直いい気はしないし」

「確かに、そうね……」


 だが本当にそうなのだろうか。

 本当に婚約を結んだことをヴィネアは憐れんでいたのだろうか。

 ランスによってその婚約が不当であるとヴィネアが知っていたのならば、その憐れみはガレスではなくエレインに向かっていたはずだ。

 相手がアルストであれば……その苦労も分かっていただろう。


 彼女は一体、なにを可哀想に思ったのか。

 エレイン・キャメロに心当たりを聞けたらいいのだが、彼女は既に亡くなっている。


 悩ましげに眉を寄せたクリスティアの視線の先にミサが纏めた事件の概要が目に入る。

 ホワイトボードの一番上に鎮座しているのはガレス・オクニールの事故死の小さな記事。

 崖下に落ちた遺体を写した写真の載る記事は友人の目の前で起きた事故だという見出し。


 いや、それは今やドレッド・モスマンによる殺人だったかもしれない死。

 きっと他の者達の死は彼の死から始まっている。

 それだけは確実なる事実。

 彼の死がなければ……きっと他の死もなかったはずだ。


「5人の関係は複雑に絡み合っているわ。良いものも悪いものも含めて複雑に……」

「ねぇ、やっぱり自殺じゃなくて殺人なんじゃない?6人目の人物が居て5人を殺害したの!」

「それは無理ですよ」


 そんな気がする!っとなんの根拠もなく立ち上がり拳を握って力説するアリアドネ。

 そうであれば、全てが丸く治まるのだ。

 カーラの件も……誰かが責任などという犠牲を払わなくて済む。

 だがそれはミサがすぐさま否定をする。


「なんでよ」

「いいですか、まず毒物はそれぞれのワインのグラスに後から注がれたモノです。全員を殺すつもりならば最初からワインボトルに毒物を入れればいい話ですがボトルからは毒物が検出されていません。それに客は5人しか居なかったのをウエイターが見ています。出入り口は一カ所だけですし、しかもその扉をウエイターは見ていたんです。別の参加者があればこのウエイターが証言したはずです。あと大前提として、毒物はそれぞれで飲む分をそれぞれが購入してるんですよ。殺人なら、誰か一人だけが致死量の毒物を購入するだけでいいはずです」

「そうだった……」


 指示棒をポシェットから取り出してクリスティアが集めた情報を示すミサ。

 アリアドネの推理がどれだけ穴だらけなのかを毒物の購入という決定的な証拠を示して説明するミサに、アリアドネの気持ちは一気に消沈する。


 人一人を死に至らしめる毒物をそれぞれが購入している時点で、第三者が起こした殺人である可能性はない。

 やはりこれは自殺でしかないのだ。


 なら理由はなんなのよ!っと叫びだしたい気持ちで頭を掻くアリアドネの混乱っぷりを皆で見つめていれば、ノックの音が響きルーシーが頭を垂れて入ってくる。


「クリスティー様。ロージ・オクニールに確認したところガレス・オクニールの主治医の名はロッド・キャメロであり、カーラ・キャメロの父親でした」

「やはりそう、でしたら彼に会いに行かないとね」


 一周、回った気分だ。

 彼はガレスが死したときも、ランスが死したときも……教会でその魂の安らぎを祈った人物でもある。


 恐らく、ランス・トロワの自殺の理由を唯一知る友人は彼だろう。

 彼が遺書を持っている可能性が高い。

 そのことをカーラは知らないからこそ、クリスティアに依頼を託したのだ。


「円卓であるはずなのに……円卓にはならない。それが問題ね」


 ぽつりと呟いたクリスティアの視線の先には動かぬ5人が座っていた円卓の写真が映し出されている。

 回っている。

 円卓もこの事件もくるくると回っているが……どうしても最後の最後まで回りきらないのだと。

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