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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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尻拭いを被る者達①

「お待たせしてしまって申し訳ありません殿下」

「いえ、連絡もなく朝早くから尋ねてしまったのは私ですランポール卿」


 ユーリの待つ応接室へと続く扉を開いたマースに手を上げて中へと入るアーサー。

 主人の意向を汲み取りマースはそのまま中には入らず扉を閉めて退出する。


 アーサーの姿を見ると椅子から立ち上がり頭を下げたユーリはハイカラーシャツの胸に月桂樹が王冠を貫いている金細工のブローチ、革のベルトが絞められた黒のズボン。

 ロングコートが入り口近くのコート掛けに掛けられており、元々華美に着飾るのはあまり好きではないものの急いで来たのだろうユーリはラフな格好だ。


 差し出された手を握り返し、簡単な挨拶を済ませてたアーサーは一人がけのソファーへと腰を下ろす。


「昨日のクリスティアの件はお聞きになりましたか?」

「えぇ、先程お茶の席で本人から」


 時間が惜しいというようにユーリが早朝からランポール家を尋ねてきた本題に早々に入る。

 危険に直面したような緊張感のあるユーリの面持ちにアーサーも同じく緊張感を持って頷く。


 これから起こりうる全ての事態の対処を二人は余儀なくされるのだ。


 クリスティアという暴走馬車が引き起こすであろう予測不能な事態の尻ぬぐいを考えるだけで、その背中に伸しかかってくる気苦労に二人は同時に溜息を吐き頭を抱える。


「クリスティーは自分が第一容疑者なのだと嬉々として話しておりました」

「でしょうね、昨日捜査を担当した対人警察にも自分に起きた奇怪な出来事を喜んで話していました」

「えっ!?」

「安心して下さい、担当はクリスティアのことをよく知っている中央署のニール・グラドでしたので。クリスティアの話は一切真面目に捉えていません」


 もう既に一つやらかしていたらしい愛娘に、何故こうも自分の娘は厄介事に首を突っ込むのかとアーサーは両膝の間に頭が埋まるのではないかというくらいにその背中を丸める。


 クリスティアのことを蝶よ花よと大切に、我が儘に育ててきたわけではない。

 公爵家の令嬢として厳しくしなければならないところは厳しく接し育ててきたはずだし常識から外れるような行動は慎み、人様に不要な迷惑は掛けないようにしなさいと口酸っぱくアーサーは言ってきたはずなのに……どうしてこうなったのか。


(いや、しかしながらクリスティアがこうなるきっかけは私が作ったのかもしれない)


 初めてクリスティアが些細な失せ物を見事な推理によって解決したときアーサーはそれはそれは誇らしい気持ちになったのだ。

 ドリーと共に褒めて褒めて褒め称えて賞賛したのだ。

 それがまさか今日の今日まで続く頭の痛い問題になるとは思いもせずに……。


 あんなに褒めるべきではなかったと今更悔やんでも遅い後悔を何度となく沸き立たせるアーサーの心の内など知らずにいるクリスティアは、そんな些細な両親の賞賛など既に記憶の奥底深くに仕舞い込んで思い出しもしていないので、事件を欲望のまま追いかけ続けるのは褒められた喜びをもう一度味わいたいとかそういう承認欲求的なものを満たしたいからというわけではなく、自分の私的好奇心を満たすためには誰に迷惑をかけても問題はないという元々持っている貪欲な気質なだけだ。


 幼い頃から優秀で手が掛からず、それぞれの家庭教師より勉強や運動が出来たおかげで余った時間は全て趣味……ラビュリントス内外で起こる小さな事件から大きな事件を調べだしては考察し、未解決のものは解決してきて警察組織の鼻を明かしてきたクリスティア。


 そのおかげでエルという素晴らしい息子にも出会えたわけだし、ルーシーというクリスティアに忠誠を誓う侍女も仕えさせることが出来たのでランポール家にとっては悪いことばかりではない。


 とはいえ、ほぼほぼ悪いというかアーサーが警察や他の至る所から苦言を呈されることばかりしか引き起こさないのでアーサーはこうやってクリスティアがなにかしらの事件に関わり、ユーリが事情伺いか説明に出向いてくる度にこの国の王太子なのにクリスティアの体のいい小間使いのように使われてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

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