ウエイン・オクニールについて③
「では積み重なった不満がガレス様が亡くなり爆発した……そういった憎しみはランス様以外に向かうことはなかったのですか?ご両親や、妹であるエレイン嬢とはお知り合いでしたでのしょう?」
「いいかランポールのお嬢ちゃん。うちのウエインは短絡的で怒りに支配されやすい質だったが、卑怯な男じゃなかった。やられたらやり返しはするが女子供には絶対に手を上げなかった、絶対にだ」
クリスティアの失言を心外だと言うようにギロリと睨み付けて撥ね除けたロージ。
ウエイン・オクニールとはそういう男だ。 真っ直ぐで……ただ真っ直ぐで……弱い者には絶対に手を出さない、だからこそ多くの部下に慕われていた。
それが愛しい我が息子だった。
「そうなのですね。無礼を申しましたわ、お許しください」
頭を垂れて謝罪したクリスティアにロージは許すというように一度、頷く。
「ではウエイン様が何故ランス様とご一緒にお亡くなりになられたのか、理由はお分かりになられますか?」
「いや、正直言うとうちの息子が何故自殺なんてしたのかいまだに分からない。しかも一人でならまだしも憎んでいたトロワの坊ちゃんと一緒にっていうのが解せない……だからな、色々と調べてみたさ」
クリスティアは期待をした。
ロージが当時、事件のことを調べたのならばクリスティアが今現在調べている以上に色鮮やかな情報を持っているはずだと。
だがロージは難しい顔をして肩を上げてみせる。
その期待には応えられないというように。
「だがさっぱりだ。分かったのは息子が密かに毒を購入したことだけ。そしてそれを飲んだことだけだった」
「毒を購入されたのはウエイン様だったのですか?」
「全員分じゃあない。毒は一人分だけだ」
「……一人分?他の方々は?」
「毒を売った商人は全員が全員、一人分の毒をそれぞれ買っていったと言っていた。大方、警察が調べたときに他の者に殺されたと疑われないようにしたんだろう……そういったところはトロワの坊ちゃんの入れ知恵かもな。あの子は几帳面だったから」
ロージはそう言って天井を見上げると、自身の願望を込めた思いを吐露する。
「俺はな、思うんだよランポールのお嬢ちゃん。ウエインはガレスの仇を取ったんじゃないかって」
「どういうことでしょう」
「ウエインはな、トロワの坊ちゃんに一緒に死ぬように迫ったんじゃないかって。ガレスが死んでその心に罪悪感を持ち続けるくらいならば一緒に死ねと、死んで罪を償えと……そう迫ったんじゃねぇかとな」
喧嘩両成敗。
ロージがウエインに口酸っぱく言っていたことだ。
一発殴ったなら一発殴られろ、そして最後は手を握り合って互いを許しあえと。
ウエインはランスを許すために、共に死ぬことを望んだのではなかろうか。
「ですが、それだと他の方々が共に亡くなられた道理がありませんわ」
「他の奴らのことなんて知らないさ、丁度死にたいと思っていた奴らだったんだろう」
「ならばロージ様、あなたはウエイン様がドレット・モスマンを殺したのかと警察の方にお尋ねになられたとお聞きいたしました……何故、ランス様ではなくドレット様だったのですか?」
「ドレッド・モスマン。あぁ、よく調べたな。そうだな、アイツだけは例外だったのかもしれん」
「例外とは?」
「理由は分からねぇが、死ぬ数日前に酒に酔ったウエインが言っててな。モスマンを殺してやると。だからトロワの坊ちゃんは相打ちを狙ったとしてもモスマンは明確な殺意を持って殺したんじゃねぇかってな。あくどいことをしている奴だったからな、なにかそれでウエインの恨みでも買ったか……ま、殺してないにしても金遣いの荒い奴だったようだから悪いところから金でも借りて首でも回らなくなって一緒に死のうとでも思ったのかもな」
群れる奴は大抵一人でいることを寂しがる。
ドレットはいつも群れていた。
悪い奴らともだが、共に死んだあの5人達とも。
「そうですか……では最後に、ランス様は遺書を残されていたそうなのですけれど、ウエイン様は本当になにも残されておいでではなかったのですか?」
「トロワの坊ちゃんは遺書を残してたのか?そりゃ、羨ましいことだ。何故死んだかの理由を知れたってことだからな。うちの息子はなにも言わずに死んじまったよ」
つまりロージの知り限りではウエインは遺書を残しておらず、ランスの遺書があったことを知らなかったということだ。
「トロワ家は坊ちゃんが死んで、お嬢ちゃんは幸いにも家を逃げだし、仕方なく傍系の子を跡取りとして迎えたそうだが……まんまとその子に家に乗っ取られて田舎に隠居して、すぐにくたばったそうじゃないか。俺達はガレスの意思を継いでこうして首都で栄えている。皮肉だろう?」
息子を二人も亡くすなんて望んでいたことではなかったけれど、結果として勝ったのは自分達だ。
そう不敵に笑ったロージのその瞳の奥には悲しみが沈んでいた。
愛する息子達を亡くした悲しみが、静かに癒えぬままに……。




