犠牲者達の友人③
「そのような事実があったのですか?なにか殺人を疑うような証拠が……」
「いいえ、証拠という証拠があるわけではないのですが……恐らく貴族であれば、それを疑う事実があったのです。まずガレスくんとランスくんはあのクラブの中でも特別、仲の良い関係でした。きっとお兄様であるウエインくんよりもガレスくんはランスくんを慕っていたように思います。そしてその特別な関係の間にはいつだって……ランスくんの妹、エレイン嬢の姿があったのです」
美しく可憐で誰にでも平等で優しいエレイン・トロワ。
彼女を知る者は誰もが彼女に憧れ、恋い焦がれた。
トーマスもエレインに憧れた他の男達同様に、年甲斐もなく彼女に胸をときめかせた男であった。
「元々、エレイン嬢とガレスくんが学友であったことからランスくんとの交流が始まったと聞いています。ご存じの通りトロワ家は伯爵位の貴族ですが、オクニール家はそうではなく。平民街で用心棒を生業にしている家系でした。なので無頼で粗野である平民との付き合いをトロワ家の両親は良く思っていないようでした」
開かれた学園によって結ばれたエレインとガレスの付き合いだったが、親の世代は今だ貴族は貴族、平民は平民と付き合うべきだという意識の強かった時代。
トーマスは参加したパーティーで聞いたのだ。
トロワ家の両親がランスがエレインの影響で平民と付き合っていて困っていると、そう不満を漏らしているのを……聞いてしまったのだ。
「ガレスくんはオクニール家の皆がそうであったのとは違い体が弱く、暴力的なことをあまり好まない性格でした。家業を嫌っていて、力を誇示した仕事は将来的に続くものでもないのだからもっと別の仕事をするべきだと……例えば雇用した人を能力に合った仕事へと派遣するような仕事を考えていて、エレイン嬢はその考えを応援していました。二人は否定していましたが、誰もが二人の仲を疑っていました」
そしてそれは兄であるランスも認めている仲であったように見えていた。
それほど三人は特別に仲が良く、よく一緒に居たのだ。
「ですが今以上に身分というものが重要視されていた時代。トロワ家も、他の貴族と同様に権威欲の強い人達でしたから貴族と平民との恋は所詮、夢物語。エレイン嬢にも婚約はしておりませんでしたが親の意向を受けて有力な、裕福で有力な結婚相手がいました」
「あのアルスト様がエレイン様の婚約者だとお伺いしたのですけれど……元々は違ったのですか?」
「あれは幸運な男だっただけです。ガレスくんが亡くなってエレイン嬢を慰め支えて得た婚約でしょう……サンドス家は侯爵家ですから、理由を付けて邸へと伺うことも容易でしたし、アルストくんはエレイン嬢に好意を持っていましたから。トロワ家としても、自分達が考えている結婚相手以上にエレイン嬢の結婚相手として申し分はなかったはずです」
俯いたトーマスの嫌悪を顕わにした表情を見る限り、エレインの親の意向である元々の結婚相手というのはあまり良い人物ではなかったのだろう。
そして同じくらいに、アルストにもあまり良い感情を持っていない。
「だからきっとあの日、卒業の迫るあの事故の日、ガレスくんとエレイン嬢は駆け落ちをしようとしていたと……私はそう思っているのです!私は、側に居ながらも彼を守れなかったことをずっと後悔しているのです!」
「よろしければ、ガレス様の事故のことをお詳しくお話しくださいませんか?」
顔を上げたトーマスが勿論だというように頷いて自らが望む物語を語る。
事実を語るというよりかはそういった恋物語を願っているかのような……。
舞台の進行役のように語り出す。
「あれは一段と夏の暑さが厳しかった日のことでした。いつものようにクラブに参加したときにランスくんから首都よりかは幾分か涼しいトロワ家の別荘へと来ないかと招待を受けたのです。参加人は発起人のランスくん、エレイン嬢、ガレスくんそしていつもの4名の予定でした。私は二つ返事をして、そして当日を迎えました。ですが当日、アルストくんが家の都合で遅れることと、参加予定だったウエインくんが仕事の都合で不参加となったことをランスくんから聞かされました」
なので最初から参加していたのはガレス、ランス、エレン、ヴィネア、ドレッド、トーマスの6人。
首都から列車で2時間ほど離れた避暑地は当時はまだあまり知られていない場所で。
周りに民家はなく、静かで趣のある別荘であった。
「あぁいう場にエレイン嬢が参加されるのは珍しいなっと思ったのを覚えています。エレイン嬢はランスくん経由でそれぞれと個人的な仲の良さはありましたが皆が集まる場、例えば参加するクラブなどには一度も顔を出したことはありませんでしたので。そのときは確か……近くの村の孤児院でのボランティアに参加する予定で、ガレスくんの知り合いが孤児院を回っているとかでそれを手伝うのだとおっしゃっていました。ガレスくんも参加予定だったらしく、今回の避暑地への旅行はそのボランティアの話が出たので折角なら皆で集まるのも楽しいだろうとなったわけです」
貴族の若い娘が積極的にボランティアに参加することは珍しい。
エレインの優しさに胸を打たれたトーマスだったが、今思えばガレスとの数少ない密会の機会であり、自分達はカムフラージュだったのかもしれない。
それほど、エレインとガレスの恋には障害が多かったのだ。
 




