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行方知れずの遺書①

 帰宅後、クリスティアが使用している多くの私室の中の一部屋は乱雑としていた。


 ホワイトボードにはミサのライブラリーの中にあった事件の記事が映し出され、机の上には図書室で集めた事件の記事ほぼゴシップが散らばっている。

 そんな事件の資料達に埋もれ、手に持っていた数枚の新聞記事と数時間、睨めっこしていたアリアドネは、とうとう我慢出来なくなりそれを天井へ向かって投げ上げる。


「あーー!同じことばっかりしか書いてなくて嫌になる!文字を読むならビュジュアルノベルが見たいぃぃ!この無駄な時間のスキップコマンドだしてよぉぉ!」

「あ!駄目ですよ!借り物なんですから乱暴に扱ったら!」


 ハラハラと舞う資料達の下で、毛足の長いカーペットの敷かれた床の上に大の字になって寝転んだアリアドネが悲痛な声を上げる。


 どの資料にも5人が死んだときの状況、ウエイターの証言、友人知人達の言葉、見識者の推理が書かれているが……どれもこれも、そうであった、そうであろう、そう考えるっといった風に似たり寄ったりの考察で役にも立たないことばかりしか書かれていなくて嫌気がさす。

 当時、大きく話題になった事件でもあるので資料の数も多い。


 もう嫌、恋愛要素のないノベライズを読んでも全然楽しくないっ!と文字の羅列に嫌気が差して全ての思考を放棄するアリアドネと、舞い上がった資料を集めようと飛び跳ねながら手を伸ばして叱るミサに、戻ってきたクリスティアはクスクスと笑みを溢す。


「お疲れね、シャルトンでケーキを買ってきたから手を休めましょう。なにか目新しい記事はありませんでしたか?」

「お帰りクリスティー!全然全くなんにもなかったわ、どれもこれも同じ内容ばっかり!」


 クリスティアが寝転ぶアリアドネへと近寄り、ケーキの入った白い箱を見せる。

 前世、日本人かつ実家も縁側があるような和風建築だったのでアリアドネはソファーに座るよりも床に座るほうを好むせいか、ソファーがあってもラグがあれば床に座ってしまうのでみっともないといつもルーシーに怒られ罰を与えられていた。

 だが癖のように、怒られても繰り返してしまい罰を受けてしまう様を憐れに思ったクリスティアは、数部屋ある私室の内のこの一室の床にだけは全てカーペットを敷くと土足厳禁とし、アリアドネと共に居るときはなるべくこの部屋を使用するようにしている。


 飛び起きたアリアドネがケーキの箱を見て真っ先に飛びつくと受け取ったそれをローテーブルの上に置く。


「クリスティーはなにかあった?」

「ヘイリー伯父様がおっしゃるにはこの事件が集団自殺と決定づいたのはランス・トロワの遺書が警察に持ち込まれたからだとのことなのですが……遺書が見付かったという記事はございませんでしたか?」

「遺書?私が見る限りどの記事にも無かったけど……」

「私のライブラリーの中にもそういった記載はありません」


 その遺書がカーラが望む答えを持っているのかもしれない。

 集団自殺という異様さから後追いが出ないようにと遺書は公にはされず、警察は事件を一気に沈静化させたのだろう。


 その遺書を持っている友人が誰なのか……それがこの事件の鍵になるのだ。


 開いた箱の中に広がる宝石のようなフルーツケーキに目を輝かせたアリアドネは、糖分だ、糖分が足りなかったのだと無意識に欲していた糖分への渇望を満たせることに浮かれていればノックの音が響き、義弟のエル・ランポールがサービスワゴンを押しながら入ってくる。


「帰っていたんですね義姉さん」

「えぇ、エル。紅茶を入れてくれたの?わたくしもいただいても構わないかしら?」

「勿論です」


 皆と共に記事の確認を手伝っていたエルだったが、あまりの記事の多さに唸り声を上げ、頭を抱えて行き詰まっているアリアドネの様子を見かねて一旦休憩をと思いお茶を入れてきたのだ。

 あのまま休憩なく事件の記事を見続けていれば発狂でもしそうだった。


「クリスティーがランス・トロワの友人が彼の遺書を警察に持っていったって話を聞いてきたんだけど、エル様が見た資料にそんな記事あった?」

「遺書ですか?いいえ、僕が見た事件の記事にはそういった記載はありませんでしたけれど……友人の話なら多く載っていましたよ」


 ラビュリントス王国を賑わせた事件だったらしくあっちこっちの新聞や雑誌には関係者の話、友人のそのまた友人の話、精神分析etc.と多くの話が載っていた。

 取り分け友人の話は事件が過熱するにつれて多くなっていったように思う。


「事件を取り扱った記事も多く、ゴシップも溢れんばかり……自殺という発表があるまで憶測が随分と飛び交っていたようです」

「そうなのね」

「一応、それぞれの自殺として上げられている理由を纏めてみたわ。ミサ、ボードに映して」

「了解です!」


 魔法道具であるホワイトボードを示したアリアドネの声にミサが返事をして、がま口のポシェットから指揮棒を取り出しそれを振るうと、乱雑だったホワイトボードの文字が纏められる。


 ランス・トロワ。

 神官になる予定だったが両親に反対されており、神官になることを断る手紙を勝手に送られ絶望していた。

 とある事故に関わっており、その罪悪感に心を病んでいた。


 アルスト・サンドス。

 女性関係で揉めており、婚約していた女性から婚約破棄を申し出されていた。

 優秀な兄と比べられ未来がないと常々言っていた、自分が出来ることは問題を起こして親に甘えることだけで、酒に酔うと消えたいと言っていた。


 ウエイン・オクニール。

 可愛がっていた弟が事故で亡くなり精神が不安定になっていた。

 抗うつ薬を常用していた。


 ドレット・モスマン。

 現場となったレストランは経営が上手くいっておらず借金があった。

 ギャンブル癖があり犯罪組織に追われていて、常に不安がっていた。


 ヴィネア・レグラス。

 舞台の主演が決まっていたが、当時の支配人とのただならぬ関係の噂が広まり降板させられた。

 麻薬の類を常用していたようで、薬が切れると落ち込みが激しかった。


 これらは新聞記者のロベールも言っていた、こうだったかもしれないという脚色された自殺の原因達だ。

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