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新聞記者の取材⑥

「分かりました。ありがとうございますロベール」

「んで?あんたの灰色の脳細胞を働かせるのは、一体どんな依頼内容なんだ?」

「まぁ、ロベール。記者であるあなたにわたくしは話さないと分かっているでしょう?ただ一人の女性の未来と一人の男性の愛がかかっているのです。わたくし、どんな恋物語も愛のない終わりは好みませんのよ」

「けっ、なんじゃそりゃ」


 訳が分からないといった表情を浮かべたロベールに、これ以上無駄な追及をされないためにクリスティアがルーシーへと目配せすれば、彼女はロベールの前へクリップファイルを差し出す。

 今度は少し優しげに。


「それよりも新しい出版社の編集長としての契約をいたしましょう」

「はぁ!?お前、あれはあれだろう?作家のリストを見せて俺から情報を引き出そうっていう魂胆だったんだろ?」

「それもありますが……あなたを雇いたいという気持ちは本物ですわ」


 リストはてっきり事件の内容を聞くための道具なだけであって、自身になにかの恩恵があるとは思ってもいなかった。


 降って湧いた幸運。

 だが、ロベールは難しげに頭を掻く。


 記者として面白可笑しく貴族をネタにしてきた自分が、公爵令嬢の出資する出版社の編集長という席に相応しいとは思えないからだ。


「俺は別に……平民だろうが貴族だろうが、男だろうが女だろうが関係なく優秀な作家が正当な評価を受けられたらそれで構わねぇよ」

「えぇ、その意見には同意いたします。そう思うあなただからこそわたくしは相応しいと思っているのです。それにわたくしの大切な作家にも頼まれたのです。遊学から戻った折には必ずあなたを担当に付けて欲しいと」


 開かれたクリップファイルに挟まれた契約書。

 破格の給料に破格の労働条件。

 ルーシーに追いかけ回されていた地獄の先で待ち受けていた悪魔の契約書、いや天国への切符なのか……。

 これが地獄か天国かどちらから差し出されている手なのか判断しかねて躊躇うロベールは、ギャゼを辞める前にその前途を祈った作家の話に顔を上げる。


「良い作家は良い担当を見抜く目もあるのです。あなたの優秀さはわたくしも存じておりますから否はございません。あなたが担当してくださらないと一人の優秀な作家がわたくしの元から去ってしまうわ。まぁ、どうしましょう困ったことだわ。わたくしのために探偵小説を書くとお約束してくださったのに……あなたが断ればわたくしその小説を見ることが出来なくなってしまうのね」


 深く嘆くクリスティアのその後ろで、ルーシーが持った短剣をキラキラと光らせている。


 今すぐ、それに、名を書け。


 口パクで伝えられた強要。

 首に短剣を当てて横へと滑らせる様に、ロベールは大いに笑う。


 なんて奴だ!拒否権なんてないただの脅しじゃないか!

 こんな状況で誰が断ることなど出来るのか!


「ははっ!俺は俺の好きなようやるぜ?いいのかよ?」

「えぇ、勿論。出資者の顔色を窺うような編集長など必要ありません。ただ探偵小説を多く出版してくださったら、出資のしがいがあるというものです」


 完全なる私欲じゃないかと肩を振るわせるロベール。

 一人の作家を最後に救えたと満足していたのだが結局、救われたのは自分だったのだ。

 ならばこの情けに救ってもらおうと、ペンを握ったロベールは力強く、自らの未来のためにその名を刻んだのだ。

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