新聞記者の取材⑤
「まず、ウエイン・オクニール。男気があるていうのは一見、聞こえが良いかもしれないが逆を言えば激情型でな。一旦懐に入れた奴になにかあればすぐに手が出るような男だった。そしてそんな男が最も大切にしていたのが家族だ。その家族の一人であり、一番可愛がっていた末の弟が事件の半年前に事故で亡くなっている、それに関わっていると噂されたのがランス・トロワだ」
パンを食べきったロベールは今度はサラダを手に取る。
「事故はトロワ家の別荘で起きてな。うちでも暫くはこの事故の件を調べていたみたいだが、それは疑いようのない事故だった。だが弟を亡くした当初、ウエインは怒り狂いランスを殺すと息巻いてたらしい。ランスは何度もオクニール家へと赴き謝罪をしたそうで、両親はウエインとは違って分別のある人物だったんだろう。その誠実さに絆されてすっかりランスのことを許していたそうだ。ウエインにとってはそれがまた憎らしかったんだろう。そしてランスはその事故の責任を感じて神に縋った結果、敬虔な信徒となり神官候補にまでなった」
パリパリと音を立てながら新鮮な野菜を噛み砕いて喉へと流し込む。
「次にアルスト・サンドス。こいつは随分と色男でな。ランスの妹と婚約する前は何人もの女が居て、そしてその中で一番古い女がヴィネア・レグラスだった」
サラダに飽きたのかそれを脇に置いたロベールは乾いた喉を潤すようにスープを飲み干す。
品の良さなど微塵もない食事の仕方に、ルーシーの眼の奥で苛立ちが募っている。
「ヴィネアはなんつーーか、感情的な女でな。仲間内からはあんまり良い評判じゃあなかった。世界は自分中心に動いていると思っているタイプで、気に入らないことがあるとすぐに癇癪を起こして物に当たる。だからアルストが自分と別れてランスの妹と婚約したことを随分と恨んでいたらしい」
「アルスト様がそういった、自由な恋愛をなされていることを婚約者であるランス様の妹はご存じだったでしょうか?」
「いいや、知らなかったようだ。アルストは上手く隠していたようだしランスも、女達と別れたと言われれば妹を傷つけるような事実をわざわざ言ったりはしなかっただろう。アルストはランスの妹との婚約が決まってから人が変わったように女関係も綺麗になったしな。あのグループの中でランスの妹は聖女のように神格化されてたように思う。優しく慈善活動にも熱心で誰からも慕われる美しき聖女……いや、女神だったのかもな」
食事の手を止めたロベールは当時感じていた印象を口にする。
エレイン・トロワはそう、間違いなく彼らの女神であった。
「ドレット・モスマンは言わずもがなだな。欲しい物はどんなことをしても手に入れる強欲な男だ。あのレストランも前のオーナーから違法な方法で取り上げたらしくて、黒い噂の絶えない男だ。もしこれが殺人事件だったのなら……この男の恨みに巻き込まれて皆が死んだと言われても納得したさ」
メインの肉料理を引き寄せて切った肉をパクパクと口に入れて噛み砕いていく。
リスの頬袋のように溜まった肉を噛み締めながらフォークをクリスティアへ向かって上下に振り話をするロベールに、とうとうたまりかねたルーシーが恐ろしいほどの形相で顔を覗かせる。
「んぐっ!ごほっ!」
「フォークは振るものではありません」
「わ、悪い……」
その瞳孔の開いたあまりにも恐ろしい形相に、危うく肉を喉に詰まらせそうになったロベールは慌ててワインで流し込む。
そして残りの品はお行儀良く、綺麗に食べきる。
「ドレットはランスの妹に気が合ったようで何度か言い寄っていたみたいだが相手にはされなかったようだ。兄からあまり良いようには聞いていなかったみたいだな。とはいえアルストとの婚約が決まると恨んだりっていうのはなく、盛大に祝ったようだ……そこは恋愛より友情が勝ったんだろう」
そうして満たされた胃袋にお腹を撫でたロベールは自身が調べた全てをクリスティアへと伝える。
「とまぁ、俺が調べたのはここまでだ。なぁ、おかしいと思わないか?この5人はお手々繋いで仲良く一緒に死ぬような奴らじゃなかった。死ぬならそれぞれ別々に死ぬ、そんな関係だった。それなのに何故か一緒に死んだんだ。俺は不思議で仕方なかったさ。でも結局どこをどう調べたところで、自殺の兆候も殺人の証拠もなにも出なかった……世間に転がっていったのはこうだったかもしれないっていう脚色された自殺の原因だったさ」
食事が終わると同時に終わった話。
これ以上はなにも持っていないと椅子の背もたれに身を預けてロベールは両手を広げて見せる。
その姿を見て、クリスティアは納得したように頷く。




