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新聞記者の取材④

「まずランス・トロワ。こいつは敬虔な信徒で一ヶ月後には神聖国で洗礼を受けて神官になる予定だった」


 次にその左隣、円卓にこめかみを乗せた、酔って眠っているかのような横顔の男を指差す。


「次にアルスト・サンドス。こいつはランス・トロワの妹と婚約をしていた。アルストは侯爵家の次男坊だから爵位を継げるわけじゃない、実際優秀でもなかったみたいだしな。だから伯爵家の跡継ぎであるランス・トロワが神官になれば、妹と結婚したアルストが実質伯爵家の主となる。良い婿入り先が決まってたってわけだ」


 そしてロベールの次の指先はこの中で唯一の女性、まるでこのワイングラスが犯人であると示す被害者かのように手を伸ばした女性を撫でる。


「ヴィネア・レグラスは若手の新人女優で、まぁ、そこまで人気ってわけじゃなかったが近々舞台の主演を演じる予定だった」


 そして右隣、記事の写真からでも分かるほどの体格の良さで椅子に身を預けずに頭をがっくりと項垂れた男を指差す。


「ウエイン・オクニールは男気のある奴で、平民街にはこいつを慕っている奴らが大勢居た。当時、オクニール家が用心棒のような仕事をしていたこともあって顔も広くてな。こいつは中でも人情味があって……自殺をしようとする奴を泣きながら止めて自分の仲間に引き入れたってこともある」


 最後にその右隣の男、テーブルクロスの上で手を握り、自らを襲う最大の苦しみから逃れようとしている男をコツンコツンと人差し指の爪先でロベールは叩く。

 彼の右側の足元にはワイングラスが割れており、靴がワインで赤く染まっていた。


「ドレット・モスマンはまぁ、品行はあまり良くない男だった。現場になったレストランはこの男が経営していたから取材で俺も直接会ったが……自尊心ばっかりが高くていけ好かない男だった。孤児から成り上がったから仕方のないことかもしれないが……裏であくどいこともしていたようだし、殺されることはあっても自ら死ぬっていうタイプではなかったな」


 一通り、犠牲者達のことを話してみせるロベールだが、これは事件の発生した頃には他の新聞記事にでも多く書かれていた内容でもある。

 解決していない奇妙な死の事件はまずはどの記事も自殺より殺人であることを願っていたのだ。


「あなたが調べた結果として、誰も彼も自ら死を選択する理由がない……と。そういうことですわね?」

「あぁ、そうだ。言っちゃあ悪いが興奮したよ。もしかするとこれは集団自殺に見せかけた殺人なのかもしれないってね」


 だからロベールは必死になって探した。

 もしこれが殺人なのだとしたら絶対何処かになにかその証拠を残しているはずだ。

 完全犯罪になる前に自分が暴いてやるのだと。

 若く血気盛んなロベールは東奔西走してみたものの、結局はなにも見付けられなかった。


「だが結果としてはこいつらに自殺の前兆はないのと同じくらいに殺人の証拠もなかった。あるのは5人が服毒によって死んだという事実だけ。この仕事を長く続けていれば人の感情ってのはどこでどう転ぶか分からないっていうのは今でこそ理解出来るが。若い頃の俺は納得いかなくてな……なにも見付けられないことが悔しくて仕方がなかったさ」


 そうして時間だけが過ぎていき、警察から集団自殺だという発表がされ盛り上がりを見せていた事件の記事は一つ減り二つ減り……。

 ロベールも終わった事件にいつまでも固執するなと上からの命令によってこの事件から離れていった。


 クリスティアがこうしてこの事件の話を聞きに来なければ、すっかり忘れ去っていた過去だ。


「とまぁ、ここまではどの新聞記事でも扱ったネタだっただろう?こっからは記事にしていない真実のゴシップネタだ。だがそれが自殺の理由にはならないだろうと捨てられたネタでもある」


 殊勝な態度から一転。

 ロベールはニヤリと口角を上げると残り一欠片のパンを口へと放り込む。


 そうだ、どんどんと事件のことを思い出してきた。

 今やすっかり過去から現在へと事件が鮮明に思い出され、自らが座るこのテーブルには5名の遺体(幻覚)が転がっている。

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