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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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公爵家、朝に全てを知る②

「それでクリスティー、大丈夫なのか?」


 この家族の中で唯一、クリスティアを心から心配しているのを表情に見せているのはハイカラーシャツの上に焦げ茶色のチョッキ、紺色がかった灰色のズボンを履き、書き物机の上で書いていた手紙に紅茶を噴き出して少し汚れてしまったらしく、それを慌てふためき片付けながら灰色の短髪の下で切れ長の緋色の瞳を心配げにオロオロとさせている端整な顔立ちの男性、クリスティアの父親であるアーサー・ランポールだけである。


「えぇ、薬ですっかり眠ってしまいましたからわたくしに問題はございませんわ。ですが今日は学園をお休みするのが賢明かと思います」


 むしろクリスティアはよく眠れて元気いっぱいなのだが、夜会に招待されていた同学年の令嬢令息やその両親親戚など見知った顔がちらほらと居たのでその者達が有らぬ噂を学園で広めているかもしれない。


 くだらない想像力の働かせた噂は出回り広がるのが早いのだ。


 しかもその噂に尾ひれでも付きかねない警察が学園に話を聞くためにクリスティアに会いに来たりすれば空想と真実とが交じり合って生まれた虚説が余計広まるだろう。

 父親以外は面白がるであろう家族や、婚約者であり共に居て状況を知るユーリに迷惑をかけるのは一向に構わないのだが、懇意にしている学園の友人達に心配をかけるのはクリスティアとて心が痛む。


 それに第一容疑者としてニールがクリスティアを改めて逮捕しに来るかもしれない。

 そんな礼儀を欠いたことニールはしないのでそれはただのクリスティアの期待でしかないのだが、もしそうなったときには学園で捕まるよりかは自邸で捕まったほうがまだ噂も立たないだろう。

 まぁ噂が広まろうともクリスティアは犯人では無いので問題はないし、広まったら広まったで牢屋に入れて貰える確率が高まるのでどんどん広めて欲しいと願っているのだが。


「そうしなさい、そうしなさい、なんだったら休学して暫く何処かの国にでも留学でもするかい?」


 大いに良い、賛成だとクリスティアの提案に大きく頷くアーサー。

 愛娘が殺人事件に巻き込まれるのが貴族としての矜持から不快というより、純粋に娘に対する心配となにかをしでかすのではないかという不安が混在する複雑な心境で留学を提案する。


 クリスティアの知らないところでアーサーは何度も顔見知りである中央対人警察署長に娘の事件介入をどうにかしろと釘を刺されているのだ……留学でもすればその不安からは解放されるだろう。


「お父様、そのようなことをすれば警察に余計怪しまれてしまいますわ。お父様の失脚を狙う貴族達などここぞとばかりにわたくしが事件を起こしたとよからぬ噂を広めるでしょう」

「だが……事件が解決するまで学園には居づらい思いをするんじゃないか?」

「事件はすぐに解決いたしますわ。それに学園では聞くに堪えない噂が広まるでしょうから今朝一番の電報で友人達に誰が噂を広めているのかリストを作っておいてくださいとお伝えしております。真実でない噂を広めた者達の処遇はわたくしが追って行いますので心配なさらないで」

「……可哀想に」


 それは果たして心配しなくてもいいことなのか、むしろアーサーの胸に湧き上がるのはモヤモヤとした暗雲立ちこめる不安だけなのだが。


 エルが全てが終わった後に訪れるであろう粛清も知らずに嬉々として噂を広めている令嬢令息達のことを思い憐れむ。

 学園では教師から先輩、全てに到るまで大体において慕われ信頼されているクリスティアに卑怯な手を使って喧嘩を売るのだ。

 身分に関わりなく平等に学ぶ機会を与えるというのが学園の信条だが、それでも格差というものは存在する。

 その中でも貴族の矜持だけで生きているような者達には学園はただの貴族社会の縮図でしかない。

 クリスティアは貴族だろうと平民だろうと分け隔て無く接するが、人によってはその姿が貴族としての品格を貶めていると考え己の価値がクリスティアと同じもしくはそれ以上だと錯覚し分別も弁えずに振る舞う道化達も居る。


 今回の事件はその愚かな道化師達を増やす結果となるだろう。


 しかしその道化師達の先に待ち受けるのはクリスティアという誰よりも価値のある存在によって行われる慈悲なる粛正。

 学園内だけではなく貴族社会からも落ちていく者達が増えるだろう結果が見物だと、自分もその処遇の一端を担うためエルは後輩達の噂の出所は自分が調べよう、それもクリスティアが望んでいるところだろうからと人知れず口角を上げたところで、コンコンっと二度ほど扉をノックする音が響く。

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