饗宴
「さぁ、乾杯をしよう」
円卓のテーブルを囲った男女が目の前に置かれたワイングラスを幹事の声に合わせて持ち上げる。
「では、乾杯」
並々と注がれたワインに誓う。
互いの友情に。
互いの繁栄に。
腹の中に抱えた思惑など表に出さずに。
口角を上げ。
瞼を細め。
笑んだ仮面を被り。
乾杯っという声を上げ。
円卓の中央に集まったグラスはカチンと軽快な音を立てると、喉を潤すために全員がその中の液体を飲み干す。
そして楽しげな食事が始まる。
食欲をそそる良い香りの料理を口へと運び、話し合う互いの近況。
賑やかしく、騒がしく。
皿から食材が無くなっていく中で突然に、ガシャンと誰かのグラスが床へと落ちる音が響く。
それは真なる饗宴が始まる合図であった。
突然に訪れたその音に注目するのは視線ではなく。
同じように皿が割れる音。
皮膚をかきむしる音。
この場から逃げようと床を這いずる音。
踊るように、のたうち回る黒い影!
歌うように、苦し悶える呻く声!
自らの死を確信するその苦しみによって、すぐに訪れた静寂……。
その中で響いたのは一対の足音。
そうしてお開きとなった宴会の会場に残されたのは、円卓に座る5人の憐れな死であった。




