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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
呪われた龍の息吹
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後悔

 そこは後宮の池へと繋がる応竜帝の宮の池。

 暗闇の中、クリスティアを誘うように連れてきたのは蒼龍妃の侍女である青凜であった。

 暗闇に紛れる胡服を身に纏った青凜は後をまるで操り人形のように従順に、続いてきていたぼんやりとするクリスティアを悲しげに見つめると、池の方向を指差す。


「ほら、あなたの大切な人がお待ちですよ」


 そう言われ、指を差した方向へとフラフラと歩いて行くクリスティア。

 その後ろ姿を見送ると、青凜は暗闇の中へと姿を消す。


 クリスティアは冷たい池に足を浸し奥へ奥へと進んでいく。

 慣れた邸の廊下を進むように、真っ直ぐに。

 その耳には先程から声が聞こえている。

 低く心地の良い懐かしい声。


『こっち』


「はい」


『こっちですよ』


「はい」


『寂しかったですか?』


「あまり」


『悲しかったですか?』


「それほど」


『心配しましたか?』


「心から……」


 バシャリバシャリと腰まで浸かり響く水音を掻き消す懐かしい声。

 焦がれた声。

 胸まで沈み体は震えているというのに、その声に近付きたくて前へ前へとただ進む。


 漸く会えるのだ。

 あともう少し。

 ほらあのベッドが見える。

 あのベッドで眠らなければ。


 とうとう肩まで水の中に沈んでいることになど気付かずに、あのベッドの横の椅子に座る人影へと手を伸ばしたクリスティア。

 だがその手が椅子へと届く前に……後ろから現れた手がその緋色の眼を覆う。


「せん、せ?」

「えぇ、私はここにいますよ美咲」


 その瞬間、耳元で囁いていた幻聴が消えて現実に響いた声と共に力強く抱き締められる感触。

 そして、どうしようもない形容しがたい感情がこの胸から溢れる。


 会いたかった。

 会いたくなかった。

 あぁ、やっぱり会いにきてしまった。

 優しい声。

 望んだ声。

 でも聞きたくなかった声。


 私は今、喜んでいるのか悲しんでいるのか。


 笑っているのか泣いているのか分からない。


 分からないけれどその声に酷く、安堵して瞼を閉じる。

 そして閉じた瞼の先で残るのは……あの日、あの時に彼を残して死んでしまった後悔だけだった。

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