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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
呪われた龍の息吹
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青龍宮③

「朝顔は周りを良く見ている子だったわ。国でも扱いを思えば仕方のないこと……以前から少し私のことを怪しんでいたみたい。あなたと同じように夕顔に龍の息吹の話を聞かされて勘付いたようね……薬の話をすると喜んでいたから幼い頃に寝物語で夕顔に聞かせたことを酷く後悔しているわ。朝顔はね、もう止めてくださいと応竜帝も悲しむからと言って懇願してきたわ……彼女の子供を殺した女に、懇願してきたの」


 全ての罪を自分が背負うから、どうか、どうかもうこれ以上罪を重ねないでくださいと訴える朝顔の哀願。

 蒼龍妃はその泣き震える憐れな肩を抱いてごめんなさいと謝ったのだ、もう二度としない……今までのことは全て応竜帝にお話しして罪を償うつもりだと。

 抱いたその肩の先で酷く冷めた眼差しを真っ直ぐに……自分を見下ろし、これも王子を害する女なのだと囁く皇太后の幻影に向けていた。


「本当に良い子だったから死んで欲しくはなかったのよ!でもでも皇太后様が囁くの!あの子が生きていて王子になにかあったらどうするのか!白龍妃の子のように死んでしまったら!きっと、きっと後悔するはずよ私のように!だから苦しまずに死ねることを結果的には感謝するはずよ!」

「朝顔様が亡くなった時間、黒龍妃は鈴を鳴らしていなかったとおっしゃってました……あなたが鈴を鳴らしたんですね?」

「えぇ、そうよ!必ず出された薬を飲むようにと私が暗示を掛けて鈴を鳴らしたの!狛獅がチョウセンアサガオを準備していることは分かっていたから、最後の要因は彼にやらせたわ!私はただ鈴を鳴らしただけ!」


 薬を与えられなければ誘われることはなかった。

 愚かな白族が不相応な夢を見なければ……。

 深く息を吸った蒼龍妃はゆっくりと疲れたように椅子の背もたれに身を預けると深く息を吐き出す。


「はぁ……あの子ったら頑張ったのね。暗闇で見えなかったから分からなかったけれど、頑張って泳いだのね……私の亡くなった子の鈴を抱えて死んでいくなんて」


 泳ぐような水音は聞こえていたからある程度、中程まで誘われた音を聞いて蒼龍妃はその鈴を白虎宮のほうへ投げたのだ。

 まさかそれを抱えて亡くなるなど……思いもせずに。


「あなたの人となりが、あなたを慕う者達の心証が……わたくしの目を曇らせ、全てを覆い隠してしまったのです。応帝陛下ですら忌んでいる母親のことを皇太后と呼ぶことのできるあなたのことを、もっと強く疑うべきでした」


 皆、廃后と読んでいた。

 誰一人として、皇太后と認めていなかった、それは応竜帝ですら……。

 だが彼女だけは尊き皇帝の母親としてその存在を認めいつまでも恐怖していたのだ……。


 これは本当に呪いのようだ。

 解けることのない呪い。


 彼女自身もまた、応竜帝の母親に龍の息吹を掛けられ続けているのだと理解した瞬間、クリスティアの視界がグラリと揺れる。


「でも私がなにかをしたという証拠はないでしょうクリスティー。秘薬とはそういうモノなのだから。ねぇ、龍の息吹はどうやって相手に吹きかけるか知っていて?」

「そう、りゅうひ?」

「あなたを連れ去るためにあの子に持たせたのはそうまさに龍の息吹よ。そしてその薬は飲むことだけが操る方法ではないの。ずっと、この後宮に来たときから嗅ぎ続けていた香。良い香りでしょう?私が調合した特別なお香は皆、気に入ってくれるわ。飲み物を警戒していたのは素晴らしいこと、でもね既にあなたは龍の息吹に罹っていたの。あなたが朝顔と同じ体型だったから香の調合に苦労はなかったわ……さぁ、あとは仕上げね。このお茶を飲みなさい」


 朱雀宮でも玄武宮でも白虎宮でも……どこに居ても嗅ぎ続けていた香り。

 これがまさに龍の息吹だったとは!


 蒼龍妃が勧める毒入りのお茶。

 呪いが成す最後の要因。

 抵抗しがたい誘惑にクリスティアは震える手で湯飲みを掴む。


「大丈夫よ、寂しくはないわ。あなたもこの国の王子の礎になるの。きっとあの子はあなたの死を乗り越えて強くなるわ。それにあなただって……大切な人がただ迎えに来てくれるだけだから、幸せのうちに死ねるわ」


 それは雨竜帝のことを言っているのだろうか。

 クリスティアが掴んだ湯飲みはそのまま自らの口に運ばれ一口、二口と、中の液体を飲み干す。

 そしてその蒼龍妃の囁きにぶっつりと意識が途切れる。

 いや、途切れているわけではない。

 まるで夢の中にいるかのようふわふわと意識が浮遊している。

 そうだ王国から連れ攫われたときもこんな感じだった。

 ポツリポツリと降り出した雨音を耳に入れながらクリスティアは覚束ない足取りで青龍宮を出て行く。


「さようなら可愛い異国のお嬢様」


 その姿を蒼龍妃の言葉だけが見送った。

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