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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
呪われた龍の息吹
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青龍宮②

「後宮で女が亡くなったのはどの時期においても王子になんらかの不運が起きたときです。白龍妃の子のときは難産で母子共にその命が危ぶまれたときにその侍女が自死、その白龍妃の子が病に罹ったときは蒼龍妃の長女がお亡くなりになりました。そして朝顔様の子である王子は、先の子である姫があの池で溺れて亡くなった頃に体に発疹が出来て病の兆しがあったと。そして一年前に朝顔様もお亡くなりになったのは……王子の健康を確固たるものにするための生け贄といったところでしょうか」

「でもあの子達の犠牲のお陰で王子は今、健やかに過ごせているでしょう?」


 漸く口を開いた蒼龍妃。


「あぁ、本当に……本当に苦しいことなのクリスティー。でも同時にこれは仕方がないことなの。私の子である最初の王子が病に犯されたときに、因習を信じず娘を差し出さなかったから皇太后様がお怒りになってしまいあの子を連れ去ってしまったの!本当に後悔したのよ!」


 悪いこととは思っていない、それが当たり前だとそう訴える声音で蒼龍妃は語り出す。


「女はね、呪いなの。王子の気を奪う暗雲。だから王子になにかあったときは真っ先にその命を差し出さなければならない。それはずっとこの国にある風習なの、事実なのよ」


 胸を押さえ蒼龍妃は俯く。


「私もね、最初は信じなかったわ。我が子を女だからという理由で生け贄に差し出さなければならないだなんてそんな、そんな不条理なことはない!絶対に嫌だと!でも何も差し出さなかった私の王子は亡くなり、私は子を産めなくなっていた。だから新しい妃を迎えてその妃が懐妊したとき、もし……もしその腹の中の王子が危うい状況になったらどうしようといつも不安に思っていたわ。現に白龍妃は難産で母子共に死にかけた……だからね……だから試してみたのよ。もし彼女に一番近い女を殺して王子が無事に生まれたのならば……それは因習ではなく守るべき風習なのだと」


 実際、白龍妃の侍女に龍の息吹を使い自死になるように暗示を掛けて殺したあと白龍妃の子は無事に生まれた。

 それは蒼龍妃にとって女が暗雲だと信じるに足る事実になった。


「侍女の死が功を奏したのか王子は健やかに健康に育っていたのだけれど流行病が後宮を襲い、王子は真っ先に病に伏されたわ。だから同時期に生まれた黒龍妃の子を生け贄にするつもりだたのだけれど……小賢しく国に返していたから手が出せなかったの。だから白龍妃の子のために私の子を差し出したのだけれど、でも駄目だった!血筋は濃いほうがいいと皇太后様にあれほど言われていたけれど母親が居なくなるのは寂しと思って私は躊躇ってしまったからよ!皇太后様はまず姫を差し出せと、それで駄目なら母親を生け贄にしろとおっしゃっていたのに!」


 女は呪いだ生かすべきではない。


 蒼龍妃の耳元でずっと囁き続けている。

 幼くして現応竜帝の妻となった少女は後宮という閉ざされた宮で皇太后が犯した罪の数々を見せられてきたのだ。


 次の皇后にはお前がなるのだからと。

 正当であるかのように。

 まともであるかのように。


 それはまさしく呪いだ。


 忌むべき因習に囚われた、呪いとなって蒼龍妃を蝕んでいる暗雲。


「龍の息吹がどうして皇后にのみ教えられるか……それは薬の最後の要因はチョウセンアサガオだからですね。各妃の宮、そして応竜帝の宮を行き来できるのは蒼龍妃、あなただけです。そう最初からあなたの謀り。朱雀宮にチョウセンアサガオをお隠しになられたのはあなただったのですね」

「えぇ。えぇ、そうよ。夕顔は朝顔の死を不審がると思ったから……私がお話を聞かせていたし、別の薬に目を向けさせたかったの……それがあなたを引き寄せてしまうなんて皮肉ね。皇太后様より教えられた秘薬は決して自分が怪しまれないためのもの、あの狛獅は愚かにもそれがチョウセンアサガオだと思って朝顔を殺そうとしたようだけれど、それは最後の要因よ」


 本当に素晴らしい推理力だというように、クリスティアへの称賛を込めた蒼龍妃の告白は、逆に愚かにも操られた狛獅を嘲笑う。


「権威力の強い狛獅は本当に、私の思うとおりに動く傀儡だったわ……龍の息吹など使わなくてもね。人を操る薬の話を皇太后様から聞いたことがある、それは応竜帝の宮に咲く花だったはずだと言えば……すぐにチョウセンアサガオを疑っていたわ。でもこうなったからには薬のことは私から聞いたと言って応竜帝を脅すでしょうから、あぁするしかなかったの。彼が事実を知れば……私のために全てを許してしまうでしょうから」


 蒼龍妃にとって皇帝の血筋以外は全くもってどうでもいいことなのだ。

 そう応竜帝の母親に()()()()()()のだ。


 酷く冷淡にその牙を向けられた狛獅。

 それが自身が駒にすぎないと知らなかった憐れな男の末路だ。

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