龍の息吹①
薄暗い地下牢の中、狛獅が簡易ベッドの上に座り苛立たしげに足を揺すっている。
「こんなはずじゃ!こんなはずじゃなかったのに……!」
石畳の床に靴が当たりカツリカツリと響く音。
こんなに狭く、汚れた部屋に何故白族の長たる血筋の自分が閉じ込められているのかが分からない!
それもこれも全て、あの役立たずな白族の妃のせい!
私の娘が就くはずだった地位を奪っておいて傀儡にもならぬとは!
閉じ込められた焦りと怒り、盤石と信じて疑わずにいた地位が崩れ落ちかけている不安に揺すっていたいた足を一際大きく踏みしめた狛獅だったが、まだ大丈夫だという確信をその胸に抱いている。
(そうだまだ!まだ私にはアレがある!)
まだとっておきの切り札があるのだ!
その切り札を持っている限り応竜帝ですら私に跪くしかない!
追い詰められた獣はぎらりぎらりと瞳を薄暗く輝かせながら乾いた口内を潤そうと舌舐めずりをする。
(アレがある限り私を見捨てることは出来まい!)
そして再び、カツリカツリと鳴り出した靴音。
埃とカビの匂いが充満する地下牢の中で、だがそれは狛獅の靴音ではない落ち着いた靴音が響くと同時にふわりと甘い香りが漂う。
ほら来た!
助けが来たのだ!
今に見ていろこの借りは必ず返してやる!
まずはあの小賢しい異国の少女を生け贄にするのだ!
立ち上がり鉄格子に縋り付き瞼を開いてニヤリと口角を上げた狛獅の瞳の中。
そこに映るは望んだ助けなどなく……真っ黒い暗雲に覆われた恐ろしい龍が、牙を覗かせ口を開いていた。




