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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
呪われた龍の息吹
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黒い雲④

「狛獅様は西白様からと言って度々白龍妃に贈り物をお届けになっております。本日の白蘭のお召し物もそう。だからわたくしは西白様にお手紙を送ったのです、素晴らしい贈り物でしたので是非わたくしも同じ仕立屋を教えて欲しいと。ですが西白様からのお返事はそんな贈り物は知らないという……それはおかしいと思い、後宮での白龍妃ご様子をお伝えして是非、戻った侍女から話を聞いくださいとお伝えしたのです。はてさて狛獅様、白龍妃の手紙は本当に西白様に届けていたのでしょうか?」

「クリスティー様からの手紙がなければ気付かぬことであっただろう狛獅!私は一度も贈り物など贈ったことはない!なにもかも知れぬことだ!私からだと偽ったのか!」

「わ、私は首長のお心を慮ったまでで……」

「ど、どういうこと?今までの贈り物はお兄様からだったのではないの?」

「いいえ、全て偽りの贈り物ですわ白龍妃。あなたを追い詰め、あなたを追い出し、自分の娘を新しい後宮の主にするための……最後には気を弱らせた白龍妃も、あの池へと浮かべる気だったのかしら?」


 言葉を吐き出すことは不利だと感じ取ったのか黙する狛獅に、クリスティアは歌うように囀るように白蘭へとその矛先を向ける。


「若くて綺麗な娘、年頃ではないばっかりに四夫人の一人に選ばれなかった憐れな娘。いいえ、その座を彼女にかすめ取られたのかしら?あなたが年頃になった今、応帝陛下の目を惹きお手が付きさえすれば地位や名誉、望んだものを手に入れられるはず……けれど蒼龍妃を愛しておられる応帝陛下に側妃は望めない。ならば夫人の座を明け渡してもらうしかない。そのためには白龍妃が邪魔で仕方がなかった。彼女達が演じる虐めは恰好の餌食でしたのでしょうね。それを利用し白龍妃を貶めれば妃同士の争いを厭う応帝陛下は彼女を追い出すはず。そして首長の妹がそんな騒ぎを起こせば西白様の地位も落ち、その席に自分達家族が座れるとそう思ったの白蘭?」


 ギロリとクリスティアを睨みつける白蘭に本当におかしそうに、愚かそうにクリスティアは肩を震わせ笑う。


「うふふっ、あははっ!まぁなんと愚かしいのかしら!わたくし、王国で王太子殿下の婚約者として多くの地位ある者達にお会いしてまいりましたが、あなたのように教養が無く、礼儀もなっていない者が妃になれると……本気で思っていましたの?親の欲目とは全くもって愚かなのですわね」


 遙かに年下の、だが地位ある者の見下し蔑み嘲笑うかのような視線。

 本来ならば自身がその高みに居るはずなのに何故こんな小娘に……!

 カッと瞼を見開いた白蘭はクリスティアへと掴みかかろうとするが、伸ばした手は空を切り、体ごと床へと押し付けられる。


「私のほうがこの女より!この女なんかよりずっと価値があるに決まってるでしょう!ただ兄が首長というだけでその地位に付いただけの女!白族の遺恨を忘れ赤族に心を許す不届き者!」


 白龍妃へと向かう白蘭の指先は必死にその心の中にある罪を指し示そうとしている。

 だがその指先には誰の目にも罪など見えはしない。


「恐らく一部隠したので飲んだ薬の量が少なく、あなたが思うような結果にはならなかったのでしょう。朝顔様は幻覚の中で予想外に耳にした鈴の音に誘われてしまった」

「そうよ!首長より預かった薬を届けたと告げればこの女は馬鹿だから首長がやったと勘違いして罪を被ると思ったの!だから幻覚に犯されたあの女の首を白龍妃のふりをして締めて跡を残すつもりだったのに!それなのに私が部屋に行ったら居なくなってて!何処行ったのかと探したらあの池で浮かんでいて!私は、私は悪くない!あの女は勝手に死んだのよ!最後まで役立たずな女!全部全部あの女が悪いのよ!」


 ほらやはり愚かな娘だ。

 自分の非を認めず、認められるとは思っておらずペラペラと……。

 皆が見守る中で発せられたこの証言は十分な証拠になるだろう。


「わ、私は知らぬこと!娘が勝手に!」

「狛獅様は後宮の人事に明るいようですので、事件後に辞められた警備兵を調べるのが良いかと思います。朱雀宮への出入りに白蘭の名が無かったので誰かが内密に通したはずですから」

「分かった……二人を連れて行け!」


 取り押さえられた狛獅と白蘭は自分の罪を否定し、応竜帝への慈悲を求めながら引き摺られるようにして連れて行かれる。

 その喚く二人を見送り、西白が白龍妃へと近寄る。


「すまない、麗白れいび(白龍妃の実の名)。私がお前に近寄ることはお前を無用な争いに巻き込むことになるとそう思っていたのだ……」

「……お兄様」

「お前を妃にする前に出ていた縁談話は赤族を敵視し、中央への強い復権を望む者との縁談で……お前を人質にして私を操るつもりなのだと容易に想像が付いた。だが当時、私にはそれを否と言える力がなく……だから狛獅の長女がなるはずだった応竜帝の妃にお前を据えれば誰もお前に手出しは出来なくなると……そう思ったのだ」


 白龍妃の手を握った西白。

 その白く美しい手の甲にポタリポタリと瞳から溢れた滴が落ちる。


「忠臣深いと信じた全ての黒幕が狛獅と知らず結局お前を苦しめてしまった……本当にすまない」

「いいえ、いいえお兄様!私こそ、お兄様に嫌われているとばかり思ってしまって……!そんなに私のことを想ってくださっているなんて知らなかったのです!本当にごめんなさい!」


 グズグズと鼻を鳴らし解けた誤解に抱き締め合う兄妹。

 その姿を静かに見ていた黒龍妃がぼそりと呟く。


「雨が止んだ頃に亡くなった」

「えっ?」

「鈴の音を聞いた?でもその時間の祈祷で鈴の音は……」


 鳴らしていただろうか……。


 それは聞こえるか聞こえないかくらいの小さな、小さな囁き。

 そうして少し考える素振りを見せた黒龍妃は、クリスティアへと視線を向ける。


「気を付けなさい、異国のお嬢様」


 緊張感を孕んだ声音。


 真っ直ぐに危険を告げるその視線は、クリスティアから逸らされると……王座に座する応竜帝へと向かう。


「真実を求めすぎるあなたのその瞳は……いずれ破滅へと向かうはずだ」


 それは先を見通す巫女としての忠告なのか。


 その視線が向かう先へとクリスティアも瞳を向ければ、そこには事件が解決して酷く安堵している様子の応竜帝の姿が映し出されていた。

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