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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
呪われた龍の息吹
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白族①

 黒龍妃の元から朱雀宮へと帰る道すがら。

 玄武宮から朱雀宮へと戻るためには白虎宮の前を通るしかない。

 青龍宮は応竜帝の宮と直接の行き来の出来る通路があるせいか造りが他の宮とは違い少し複雑で警備も厳重、青龍宮と朱雀宮の間には池へと流れる小さな川が流れており、橋も架けられていないので通ることができない造りになっている。

 その他の宮は内宮と外宮側に壁があり、2メートルほどの間には警備兵が侵入者が居ないように常に歩き見張っている。


 行きにも思ったがどうにかして白虎宮の中に入れないだろうかという淡い期待を持って内宮と外宮の間、漆喰の壁沿いを歩くクリスティアだが、高さが2メートルほどあるの壁では中を見ることも出来ず。

 転々とある内宮への入り口では警備兵も立っているのでうっかりを装って中へと入ることも難しい。


「あちらの方はどなたですか?」


 このまま大人しく朱雀宮へと戻るしかないのかとクリスティアが残念に思っていれば、白虎宮の内宮の一つである入り口の前に人が立っていることに気付く。

 手に葛籠を持った恰幅の良い男性と、白龍妃より少し若く可愛らしい女性。

 女性のほうは白虎宮に仕える侍女であろう。

 白を基調とした衣装は他の侍女達より彩りがあるので、白龍妃に直接仕えているのかもしれない。


 楽しげに和やかに話し合っている二人。

 上等な布で誂えられた華美な青色の漢服の男は、誰が見ても警備兵には見えない。

 内宮と外宮の境には警備以外の男性が立ち入っても問題はないのかと不思議に思ってクリスティアが問えば、丹黄が懐から紙を取り出すとなにやら書き出す。

 どうやら話せない丹黄は常から筆談をする用の用紙とペンを持ち歩いているようだ。


「彼は白族の狛獅バイシー様と申します。お忙しく中央に滅多と来られない白族の首長の変わりに代表のようなものを務めてらっしゃいます。前首長の弟君で白龍妃の侍女を選んているのはあの男です。女性のほうは彼の末の娘で白蘭ビャクランといって、新しく白龍妃の侍女を勤めています」

「まぁ、お気遣いありがとうございます丹黄様」


 丁寧に書かれたのは王国語。

 帝国語は話せども読み書きは不得手なクリスティアに配慮してくれたのだろう。

 その気遣いに感謝を示したクリスティアに仮面越しにニッコリと微笑んだ丹黄は、狛獅が白蘭へと手に持っていた葛籠を渡している様を見て更に文字を書く。


「あの葛籠の中身は恐らく白龍妃への献上品かと」

「なにが入っているのでしょう?」

「基本的には衣服や装飾品など妃が好むものですが……妃への献上品には検閲があるので気になるようでしたら検閲官に確認されてはどうでしょうか?」

「そうですわね……ですが直接お聞きするのも手かと」


 そういうと丁度進行方向ということもあり二人へと向かってツカツカと歩み寄るクリスティア。

 まさか直接、聞きに行くとは思わなかった丹黄は少し慌てながら付いていく。

 幸いにも警備兵が居らず、止められることはなく二人へと近寄ったクリスティアに狛獅が気付く。


「これはこれは異国のお嬢様、このような場所でなにをなさっておいでなのでしょう?」

「お話しの邪魔をしてしまったのなら申し訳ございません。玄武宮の黒龍妃の元へとお伺いした帰りなのですが。このまま朱雀宮へと戻るのはなんだか味気なく、散歩をしておりましたが警備兵の方としか会わずに少し寂しく思っていたところでお二方の姿が見えたものですから、嬉しくなったものでつい近寄ってしまいましたわ」

「あぁ、そうでしたか」

「まぁ、確かわたくしの歓迎の宴に参加されていた方ですわよね?あの場ではご挨拶が出来ず申し訳ございません。クリスティア・ランポールと申します。どうぞクリスティーとお呼びください」


 純真無垢な少女のようにニッコリと微笑んで頭を垂れれば、警戒するように訝しんでいた狛獅は後ろに立つ丹黄を見て納得したように声を上げる。

 友人が居たとしても異国の地、喋れないお供を連れての散策は実質一人のようなもの……確かに寂しくもなるだろう。

 ならば空気の読めない無知な少女の無礼な振る舞いなどは自分が寛容に受け入れるべきだと狛獅は顎髭を撫でると瞼を細めて口角を上げる。


「ご丁寧にご挨拶いただきまして、白族の狛獅と申しますクリスティー殿。宴の席に居た私にお気づきとは……素晴らしい舞に見惚れていた姿をご本人に見られていたと思うと実にお恥ずかしい」

「まぁ、そんな……わたくしこそ、皆様のお目汚しになっていなければ良いと不安に思っていたところですわ」

「なんのなんの、黄龍の降臨かと見紛うほどの美しさでございましたよ」


 両頬を両手で隠し、恥ずかしがってみせるクリスティアに多少警戒が薄れたのか。

 狛獅はニコニコとした笑みを深める。


「ところでここは後宮ですが、狛獅様は宦官なのですか?」

「あっはっはっ!いいえいいえ、私は白龍妃の兄上である首長の名代ゆえに妃の許可があれば後宮に入ることを特別に許可されているのです。とはいえ入り口までですが……本日はこちらの品を献上しに参ったのです」

「まぁ、そうなのですね。とんだ失礼を申しましたわ……他国のしきたりにはまだ慣れていないものですから」

「仕方のないことです」


 丹黄に予め聞いていて宦官でないことは分かっていたのだが、無知な少女のフリを続けるクリスティアのその偽りの器量の程度を推し量ったのか、高く笑うと白蘭が抱える葛籠を狛獅は目で示す。

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