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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
呪われた龍の息吹
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事件時の取り調べ②

「ただもし、敢えて感じたことを言うのだとしたら……その死を真っ先に受け入れたのは黒龍妃なのかなっという印象を受けました」

「黒龍妃が?どうしてそう思ったんだ?」

「取り調べの際、蒼龍妃は気丈に振る舞っておられましたがショックだったのでしょう、時々静かに泣いは言葉を詰まらせて話が止まりました。白龍妃も同じく、遺体を見たということもありますから酷く取り乱しておられて……事件当初は泣くばかりでまともに話を聞くことも出来ませんでした。ですが黒龍妃だけは……遠目からでも遺体を見たというのに淡々と事件当夜のことを話されて。あぁそうだ、黒龍妃だけはアリバイがあったのです。そういったことも含めて僕にはそれがまるで用意されていた台本を話すかのように聞こえたのです」

「どのようなアリバイなのかしら?」

「祈祷を行っていたのです、そのときに同じ一族ではありますが巫女が数人付き添っていました。その者達にも確認しましたが間違いないそうです」


 各妃の宮で行われた取り調べで唯一取り乱さなかった妃。

 そしてアリバイのあった妃。

 一族の者の証言は本来ならばあまり信用されないものなのだが……自死という結末ありきの事件ではそれは十分すぎる証拠となった。


「この国はまだ男性優位の社会です。前紅龍妃は亡くなり、白龍妃は応竜帝の怒りを買ってお渡りがない、蒼龍妃は子供に関しては言うに及ばず……ならば子供が出来る確率は黒龍妃が一番高いわけです。現に黒龍妃は懐妊されました。本来ならば残された前紅龍妃の子は母親という後ろ盾が無いのでそのまま無事に育ったとしてもお立ち場はそれほど強いものにはならないはず。ならばこれで黒龍妃の子が男の子であったのならば……雨竜帝の次の時代に期待するってものです」

「でしたら蒼龍妃が前紅龍妃の子の後見人となったことは予想外のことでしたでしょう」

「そうですね。応竜帝は変わらず蒼龍妃を愛しておいでですから……子にとっては強力な後ろ盾です。それに後宮も縮小させていくと宣言させておいででしたから……新しい紅龍妃を据えたことも予想外だったと思いますよ」


 黒龍妃にしてみれば……子が出来たことだけが唯一の予想通りだったのかもしれない。

 それ以外は全て予想とは違っていた。

 ならばそんな不確実なことのために事件を起こすとは、考えられない。


「雨竜帝、黒龍妃の子の性別はお分かりに?」

「それが……分からないのです」

「分からない?」

「通常、妃の健診は後宮の医務官が行うのですが今は人手が足りず医術の心得のある蒼龍妃と紅龍妃が代わりに行っております。黒龍妃は懐妊していることもあって他の妃を警戒しているのか、自身の国の医者を呼び寄せ健診を受けており子の性別を隠しているのです。兄にも性別は生まれてからの楽しみにして欲しいと言われたそうです」


 知っているのは黒龍妃本人と自身が呼び寄せた医者のみ。

 侍女達にすら性別を隠すほど徹底して守られている。


「前の子のときもそのように隠されておられたのですか?」

「いいえ、前の子のときは普通に公表していました。子が出来て安定期に入るとその妃を主役に宴が催されるのですが、子の性別によって宴の内容が異なりますので性別を公表することは重要なのです。男だとより盛大になります」

「とはいえこの一年は前紅龍妃の喪に服すっていうんでお祝い事は基本避けられているんですけどね、宮全体が陰鬱としてるせいで事件後に警備兵も何名か辞めましたよ……」


 しゅんっと肩を落とす碧馬。

 国の尊き皇帝の妃が亡くなったのだ、仕方のないこととはいえ碧馬は生まれた我が子のお祝いも中々し辛い状況だったのだ。


「まぁ、肩を落とさないで碧馬。応帝陛下がわたくしのために宴を開いてくださるとのことなので、お祝い事も解禁となるでしょう」

「マジですか!やったーー!」


 これで自分の子のお祝いが出来ると喜ぶ碧馬に雨竜帝が呆れている。

 まぁ、本来ならば生まれて直ぐに行う祝い事を一年待ったのだからその喜びは仕方あるまい。

 盛大にお祝いするのだと浮かれていた碧馬だったが、フッと真面目な顔をしてクリスティアを見つめる。


「クリスティー様、実は僕の妻は元々前紅龍妃の侍女をしていました。でも僕との結婚を機に何故か暇を出されたんです。なにか粗相をしたってわけでもなく、理由を聞いたらなにかあっては嫌だからと言って詳しく理由をおっしゃられなかったようなのです。妻は……辞めなければ自分がその死を止めてあげられたはずなのにとずっと気に病んでいて。せめて残された子を守ろうと……今は、青龍宮で前紅龍妃の子の乳母をしています」

「まぁ、そうなのね」

「はい。どうか妻のためにも、前紅龍妃の……朝顔様になにが起きたのか真実を見付けてくださいお願いします」

「……勿論ですわ」


 深く頭を下げた碧馬の肩にクリスティアは手を置く。

 その暖かく優しい掌に顔を上げた碧馬は安心したようにニカッと笑う。


 王国で過ごしていた頃、雨竜帝を亡き者にせんとする魔の手を幾度となく防いだこの少女ならばきっと……埋もれている、隠されている真実を見つけ出してくれるはずだと期待して。

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