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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
呪われた龍の息吹
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事件時の取り調べ①

 クリスティアが朱雀宮から雨竜帝に案内され、外宮にある資料室へと来たのは夕顔と雨竜帝と三人で仲良く昼食を取った後だった。

 資料室は外宮にあるということで、妃である夕顔は朱雀宮にて留守番である。


「ふわっ……」

「随分と眠たそうだな」

「やや!雨竜帝!お待ちしてました!」


 資料室の前に後ろ手に腕を組んで厳めしく立っていた官服の男が、急に気の抜けたように大きなあくびをする。

 人懐っこそうな垂れた目にクルクルと柔らかそうな薄茶色の巻き毛。

 背はすらりと高いが肩幅や腕周りの太さが服の上からでも分かり、筋肉がしっかり付いていることが分かる。


 30代半ばのその男は雨竜帝に掛けられた声にビクッと肩を揺らすと、ばつの悪そうな顔をしてすぐさまにこの口が悪いと欠伸をした口を叩いて罰する。

 その姿に雨竜帝が苦笑いしていれば、隣を歩いていたクリスティアも微笑み唇を開く。


「お久し振りですね碧馬ヘキバ。お元気そうな姿が見れて嬉しいわ」

「なんと!僕を覚えておいでですかクリスティー様!」

「勿論よ」


 幼い雨竜帝の護衛として共にラビュリントス王国へと来ていたのはまだ年若い頃のこの碧馬だ。

 人懐っこくて賑やかで、誰とでも仲良くなっていた碧馬のことをクリスティアはしっかりと覚えていた。


「いやはや見間違えるほどお美しくなられて!成長なされたお姿をお目にかかれるとは思ってもいなかったものですからこうして再会でき感激です!」

「まぁ、ふふっ。わたくしもよ。てっきり雨竜帝の護衛をなさっているのかと思っていたのだけれど違うのね」

「一年ほど前に碧馬は結婚し、最近になって子供が生まれたので……妻と子のために閑職に付きたいと駄々をこねられたのです」

「人聞きの悪い!子との時間を多く過ごせるようにと雨竜帝が僕を閑職へと追いやったのです!命があれば僕はいつでも雨竜帝の元へと帰るつもりですよ!」

「止めよ!恥ずかしい奴め!」


 よよよっと泣き真似をして雨竜帝に抱きつかんとする碧馬の頬を、照れた様子で押し返す雨竜帝。

 幼い頃に母を亡くし、一人となった雨竜帝に父親であった前皇帝は関心を向けることはなかった。

 その代わりに異母兄である現応竜帝は優しく、雨竜帝の身を常に気に掛けてくれていたが……その母は、雨竜帝を亡き者にしようといつだってその鋭い爪で幼い異母弟の首を狙い続けた。

 結果として雨竜帝は一人、王国へと逃がされることになった。


 両親という者達との縁が薄かった複雑な幼少期。

 自分が抱えていた寂しいという気持ちを雨竜帝は碧馬の子に味わわせたくはないのだろう。

 共に王国で過ごしていた碧馬もそれはよく分かっているので、言いたいことはあれどそれを喉の奥に閉まってその辞令を受け入れたのだ。


「それで碧馬、資料の準備はしているだろうな?」

「勿論ですとも!こちらが前紅龍妃が亡くなったときに後宮に居た者達の取り調べの記録です」


 碧馬が室内へと二人を案内し、示した机の上には数冊の本が重ねて置いてある。

 全て事件後の取り調べの記録であるそれらにクリスティアは近寄り撫でる。


 王国では警察の取り調べは映像で残されることが多いのだが黄龍国では今だ紙で残されている。

 長く他国に対して排他的であったこともあり、魔法道具の発展が遅れているのだ。


「ありがとうございます。碧馬は取り調べに参加をされたのかしら?」

「はい」

「では、取り調べを見てなにか思うことはありまして?」


 うーーんと碧馬は難しそうに困ったように眉間に皺を寄せる。


「……事件のあった時間帯が時間帯でしたから皆の証言に確証がないのは仕方のないことでしたし。遺体を見付けてすぐに、池へと向かう一対しかない足跡が見付かったということもありまして自死であるというのは割と早い段階で推測されました」

「そうなのですね」

「事件後、ご夫人達はそれぞれにショックを受けていらして……あまり長くお話しを聞くことは躊躇われました。応竜帝からも気遣うように命じられていましたし……正直言うと事件を詳しく調べるというよりかは決まった結末に向かうための体裁としての取り調べでした」


 自死という結末を描くための取り調べ。

 碧馬はその取り調べに監視役として参加をしながら、これで本当に良いのだろうかという違和感は感じていた。

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