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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
呪われた龍の息吹
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蓮池①

 翌朝、早朝の朱雀宮。

 寝所を抜け出したクリスティアは散策という名目で前紅龍妃である朝顔が亡くなった池の側、近くまで来ていた。

 歪な楕円のその池は東西に大体2、30メートル、南北に大体10メートルほどの大きさがあり、妃達の各宮に囲まれるようにして存在していた。


 蓮の花が咲くこの池の中で、まるで悲劇オフィーリアのように亡くなっていた朝顔の姿は哀れであり、美しくもあったであろう。


 クリスティアはその死を憐れむように冷たい池を指で撫でたあと、池の少し離れた場所にある石畳の敷かれた遊歩道へと戻り足元を見る。

 薄く泥に汚れた高底靴。

 クリスティアが通った後にはハッキリとした靴跡が残されている。

 これでは雨が降っていようと降っていなかろうと関係なく足跡が残ったはずだと、クリスティアはその汚れた靴を脱ぎ置くと素足で石畳を歩き出す。


 この遊歩道は池を囲むように敷かれており、朱雀宮から白虎宮、玄武宮、青龍宮に繋がっているようだ。

 朱雀宮から青龍宮の間には池へと続く小さな川が流れているので行き止まりとなっている。

 妃ならば誰もがなんなく入れる中庭だが、そうではない者達には……各宮が城壁となり入ることすら難しい造りとなっていた。


「それ以上入って来ないで!」


 遊歩道を池を眺めるようにして歩いていれば突如として響いた帝国語の怒鳴り声。


 それは朱雀宮の白いスズランが控えめに咲く質素な裏庭から、一転して……灯籠と石組みが多くある白虎宮の裏庭へと様相が一変する場所との境目にクリスティアが立ったときだった。

 声がしたのは池とは反対側、鮮やかな色とりどりの花が咲く華やかな庭の方向。

 外から見ても美しいその庭は中から見ればそれ以上の美しさだろう。

 どうやらこの裏庭は妃の好みによって飾られているようだ。

 そして白虎宮の裏庭に面した宮の廊下から白龍妃が強張った、なにかを恐れているような表情を浮かべてクリスティアを見下ろしている。


「まぁ、ご挨拶申し上げます白龍妃」


 ここでは王国式に、胸に手を当て薄水色の漢服のスカートを軽く持ち上げて膝を曲げたクリスティアを忌々しげに見下ろす白龍妃のその口が再度開き、怒鳴り声を上げる前に……バタバタと慌ただしい足音がクリスティアが来た方向から響く。


「クリスティー!何処に行っていたネ!」


 夕顔が大声を上げて走り寄ってくる。

 どうやら寝所から消えたクリスティアを探していたらしく、心配げにその体を見回すとなにも履いていない素足に頭を押さえる。


「あんな所に靴を置いていったら驚くヨ!」

「まぁ、ごめんなさい夕顔。池へと近寄って泥で汚れてしまったものだから……この綺麗な石畳を汚すのは躊躇われてしまって」


 あまりにも白く、汚れのない石畳は凹凸もなく、素足でもとても歩きやすかったと悪びれないクリスティアに、残されていた靴の爪先が池へと向かっていて心底驚いた夕顔は、無事ならば良かったと安堵の息を吐く。


「なにもないなら良かったケド。それよりも怒鳴り声が聞こえたが……私の友人になにかしたんではないだろうな白龍妃?」

「はっ!その下賤な者が私の庭に入って来そうだったから止めただけよ!こんなときにこの後宮に勝手に人を連れてくるなんて!また濡れ衣なんて着せられたらたまったもんじゃないわ!せめて自分の宮にでも閉じ込めておきなさいよ!」

「ピーチクパーチク喚いて恥ずかしくないのか?そんなんだから応竜帝から愛想を尽かされるのよ」

「なんですって!?」

「まぁ、お二人とも落ち着いて……わたくしはただ白龍妃にご挨拶をしていただけよ夕顔」


 クリスティアが挨拶をするために身を下げている姿を見て、なにか失礼なことをしたのではないかと白龍妃を睨みつける夕顔だが、白龍妃の住む白虎宮へと断りもなく勝手に入ろうとしたのはクリスティアだ。


 親指の爪を噛んで苛立たしげな白龍妃の態度。

 ピリつく不穏な空気を感じ取ったのか、クリスティアは二人の喧嘩を止めるように間へと入る。

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