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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
呪われた龍の息吹
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朱雀宮②

「国の者達に迫られた結果、後宮へと入宮してくださった妃達でもありますから。お伺いは皇帝に蔑ろにされた妃達が皇位への執着心を抱かないようにするための配慮と、妃達を操ろうとする者達への牽制でもあります」


 それは前応竜帝に蔑ろにされ続けた自身の母親がそうであったからこその気遣いでもある。


「兄上は一番大切な者を守るためならばなんでもしますから」


 それが母親であろうと冷酷に切り捨てる無慈悲さ。

 そしてその母親を操った者達は母親への餞であるかのようにより苛烈に、残酷に処罰する。

 雨竜帝が王国から帰って真っ先に見たのは城壁に見せしめとして吊された多くの者達の死だった。


「とはいえここだけの話し、私もあまり皇位に興味がないのが本音なので……兄の子が優秀ならばすぐにでも明け渡して隠居しますよ」

「これはまた、困ったことを言っているな」

「兄上!」


 国を憂える気持ちはあるものの、雨竜帝の心にはずっと……幼い頃に過ごしたラビュリントス王国の王城で出会った、幼い少女の微笑みがある。

 彼女に自由に会いに行くことの出来ない皇位など邪魔な枷にしかならない。


 会いたいと切望していた人が隣に居るという事実に雨竜帝がクリスティアの横顔をじっと見つめていれば、笑いながら部屋へと入ってきたのは応竜帝。

 皆が慌てて椅子から立ち上がり頭を垂れようとすれば、手を上げてそれを制する。


「そう畏まらなくて良い、公の場ではないのだ。どうか気楽に」


 そう言われ頷き、一同は着席する。

 そして応竜帝は真っ先にクリスティアを見るとその高貴なる頭を下げる。


「この度は我が国の問題にそなたを巻き込んでしまたこと、そして幼き雨竜をまもてくれたことに礼を言わせてくれ。本当にありがとう」

「兄上!」


 流暢とはいわないが王国語で丁寧にお礼を口にする応竜帝に雨竜帝が慌てる。


「まぁ、そんな!雨竜帝とは良き縁で結ばれる友人となれましたし、此度のことはわたくしとて好奇心に駆られてこちらへとこうして参ったのです。そのように礼をされてしまうと、私欲に塗れたわたくしの良心が咎めてしまいますわ」

「はは!」


 黄龍国にとっては心痛める問題を、嬉々として解こうとしていることに申し訳なさそうに眉尻を下げて胸を押さえるクリスティアに応竜帝は肩を震わせて笑う。

 威厳に満ち、威圧感をもって王座に座っていたときとは違う。

 遙かに年下の少女を圧倒するのではなく、つたない王国語を使ってまで礼儀を示すその姿は実に好感の持てる人物だ。


 多くの者が彼に惹かれ、付き従う気持ちがこの短時間でクリスティアにもよく分かる。


「そういてもらえると気も楽になるというものだ。ありがとうランポール嬢」

「どうぞわたくしのことはクリスティーとお呼び下さい応帝陛下。それに感謝は全てが終わったときにまたお願いいたします」


 底の見えない子だとニコニコと微笑む幼い少女を応竜帝は見つめる。

 謁見の間での堂々とした振る舞いもそうだが、白龍妃の剣幕にも臆する様子もなく。

 堂々と背筋を伸ばしその睨みつける様を挑むように見据えていた。

 幼い頃より多くの悪意ある大人達と付き合ってきたからこその立ち振る舞いなのだろう。

 我のしっかりしているこの子の噂の婚約者はさぞ大変なはずだと応竜帝は慮る。


「それにしても応帝陛下の王国語はとてもお上手ですわ。どちらでお習いになられたのですか?」

「雨竜にならたのだ。だがいまだに促音が苦手で……上手く聞き取れないせいか発音も難しいのだ」

「まぁ、今のそのつたなさが良いのです。わたくし、とてもときめいてしまいますわ」


 可愛らしさに射貫かれましたと言わんばかりに胸を押さえて見せるクリスティア。

 その幼い少女の冗談交じりの演技をからかうようにして、応竜帝は身を乗り出す。


「そなたのような聡明な妃なら大歓迎だ。なんなら賢妃と妃の席を変わるのはどうであろう?」

「おぉ!たまには良いことを言うネ!ワタシは構わないよクリスティー!」

「兄上!紅龍妃!」

「光栄なお話しですが、わたくしは今だ王国に婚約者のある身……もし嫁ぐ先がなくなったときにはまたお声をおかけくだされば、喜んでお伺いいたしますわ」

「クリスティー様まで!」

「はは!」


 雨竜が右往左往とクリスティアと応竜帝を見て慌てている。

 そんな姿を見て応竜帝は腹の底から声を上げて笑う。

 王国より戻ってきた頃より雨竜帝はずっと彼女の話をしていたのだ。


 幼き雨竜帝の初恋相手。

 今もまだ想い続けている相手。

 この国も変わりつつある。

 後宮も、変わらねばならぬ。


 雨竜帝が皇帝へと即位したときに隣に居る相手が他の者達を牽制することの出来る異国の地位ある者ならばうってつけなのだがと、彼女に婚約者がいることが本当に惜しまれると応竜帝は考えるのであった。

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