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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
呪われた龍の息吹
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朱雀宮①

 そうして謁見の間から案内されたのは後宮内にある紅龍妃こと夕顔の住まう朱雀宮。

 この客間は普段使う妃の部屋でもあるらしく家具や装飾品は高級な物がそれなりにあるが派手さはなく、所々には可愛らしい男女の人形や花の置物が置いてある。

 これらは全て前紅龍妃の思い出を残しているのだろう。


 香を焚いているわけではないのに甘い香りが部屋全体に広がっており、風通しの良い窓の下には刺繍の施されたカーテンの間に薬の材料がぶら下がっている。

 そういう部分は夕顔の趣味が全面に押し出ているので、前紅龍妃の思い出を残しているというよりかは単純に、内装を変えることを夕顔が面倒がっているだけなのかもしれない。


「全く……謁見の間でのオマエの演技に笑いそうだったヨ、クリスティー」

「もう、あなたったら肩を震わせてお笑いになっているんですもの。他の方にバレないかとわたくし冷や冷やいたしましたわ」

「悪い悪い、あまりの迫真の演技におかしくなったのヨ。でも万事全て上手くいって良かったネ」

「えぇ、そうね。ねぇ、あなたったら妃だというのにこうも部屋に堂々と薬草の類を飾っていて咎められませんの?」

「ここは庭に毒草が生えてるような場所ヨ、薬草だったら咎められないネ。それに予め許可を得てから持ち込んでるヨ。この国で医者はまだまだ男の仕事、ゆえに宦官のなり手が少なくなった今や後宮は万年人手不足。夫人達の健康診断もままならなくてネ……簡単なものなら医術の心得があるワタシと蒼龍妃が行ってるのヨ」

「まぁ、大変なのですね」

「とはいえ一ヶ月に一回はきちんとした医者に見て貰っているし、重篤な場合は第三者の監視下の元に市井から評判の良い医者を呼んだりしてるのヨ、自分の国から医者を呼ぶ妃もいるネ」


 夕顔は赤国を追われて青国に居た頃、身を立てるために薬学を学んでいた。

 傷を負い他の国へと流れていくしかない同族の者達を少しでも救えたらという気持ちで習い始めた薬学だったが、いつしかその面白さに魅了され、自分の商会を立ち上げるほどの知識を有するようになっていた。

 その知識は今こうして妃達の健診という形で役立っている。


「それで、クリスティー?妃達との顔合わせはどうだったヨ?」

「どう……と申されましても。皆さんそれぞれお綺麗だとしか……そういえばわたくしの友人が、わたくしが帝国に行けば後宮に閉じ込めらるのではないかと心配しておりましたの。応帝陛下は面食いなのですか?」

「オマエに謙遜という言葉はないのカ」

「誤解ですクリスティー様。妃の選別に応竜帝は関わっていません」


 謁見の間で喰ってかかられて、闘争心でも沸き立たせていないかと期待する夕顔だが、クリスティアは特に気にした様子はない。

 幼い頃からラビュリントス王国の王太子殿下の婚約者として、多くの嫉妬と悪意に触れてきたクリスティアにとっては妃の意地の悪い態度など猫の威嚇程度。

 そんなことよりも妃達のそれぞれの美しさに目がいったクリスティアは友人であるシャロンが言っていた、皇帝に気に入られた美人は後宮に攫われて閉じ込められるという心配を思い出して、困ったように小首を傾げるので……前応竜帝の時代ならばいざ知らず、現応竜帝はそんな非人道的なことはしないと、その名誉のために雨竜帝が頭を左右に振る。

 とはいえクリスティアも冗談で聞いただけだ。


「ま、三夫人に対して愛情は持たなくても一応は気を遣うからネ、あの男は。誰かに子が出来れば夜伽が減る代わりに、お伺いといって一週間に一度はそれぞれの妃との時間を持つようにしているのヨ。ワタシは面倒だからパスしてるけどネ」

「紅龍妃が一番最初に応竜帝との時間を過ごしたとき、薬草をすり鉢ですり潰しだけで終わったそうです。私が今後、彼女と過ごすときはあの作業を手伝わされるそうだと応竜帝が本気なのか冗談なのか分からないことを深刻な顔をして言っていたのが今でも思い出されます」

「まぁ、ふふっ。夕顔らしいわ」

「一部の薬はワタシにしか作れない特別な調合が必要な薬だからネ。商会の仕事が忙しいっていうのに、あの男の相手なんてしてられないヨ」


 口をへの字に曲げて不満を表す夕顔は、二回目に共に過ごすお伺いとなったとき訪れた応竜帝に待ってましたと言わんばかりにすり鉢とすり鉢棒を持たせたのだ。

 夕顔を知る蒼龍妃が上手くやっているかしら?と心配になりこっそりと見に来たとき、夕顔に言われるまま薬草をすり潰す応竜帝の背を曲げた姿を見て驚き、なにをさせているの!っと夕顔は大いにお叱りを受けたのだ。


 子供のようにふて腐れながら、自分が楽しめることをするのがお伺いの時間だと聞いたので薬の調合をしていたのだと悪びれもしない夕顔。

 注意をしてもきっと同じ事をするだろうその反省の色の見えない様子に、このままにして三度目のお伺いでも応竜帝にすり鉢とすり鉢棒を持たせるわけにもいかず。

 夕顔も望むとあって一週間に一度のお伺いは無しとなったのだ。

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