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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
呪われた龍の息吹
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赤国での再会⑤

「応竜帝は他の女性を迎えることに最後まで難色を示しておられました。次帝には私がいるから新しい妃を迎える必要はないと……ですが時は今だ混迷の時期です。他の一族の妃を迎え入れたほうが国の平定も早いはずだと、蒼龍妃が強く申し出たのです。最後は折れる形で……ならば何処か一族から一人だけを迎えるのではなく、三族から一人ずつ妃を迎え入れようということになったのです」


 そうして迎え入れられたのが白龍妃、黒龍妃、紅龍妃の三夫人だった。

 応竜帝は妃達との顔合わせのときに、蒼龍妃以外を愛することはなく、またそういった感情を自分に望めばすぐに国へと返すと伝えていた。

 それは長い間、後宮という場を支配しながらも皇帝に愛されずにいた母親の狂気を見てきた応竜帝の誠意であり、せめてもの抵抗だったのかもしれない。


「そして応竜帝は宣言したのです。例え妃が男子を産んだとしても帝位の順に変わりはないと、それだけは重々承知するようにと」


 妃を迎え入れながらも生まれた王子には第一継承権を与えない矛盾。

 それもまた応竜帝の抵抗であったのだろうか。


「でしたら余計、朝顔様や他の妃の子が亡くなるのは不自然ですわね。狙うのならば蒼龍妃もしくは雨竜様ということですから……」

「えぇ、そうです。ですが兄の前ではそういうことは冗談でも言葉にはしないでください。蒼龍妃のことを本当に大切にしていますから」


 応竜帝に特別愛されている蒼龍妃。

 次の皇帝である雨竜帝。

 愛への嫉妬ならば蒼龍妃を狙うであろうし、帝位への渇望ならば雨竜帝を狙うはずだ。

 そのどちらもない朝顔に狂気が向かうことはおかしな話し。


 特に妃は、亡くなったとてまた新しく迎え入れるのだから。


「でもこの通り、私は無事です。兄が応竜帝として立ったあの日からずっと安心して眠れています。暗殺の憂き目にあったのは……もう随分と昔の話しです」


 ラビュリントス王国でも一度、雨竜帝は暗殺の憂き目に遭っていた。

 その事件で傷ついた雨竜帝の見舞いをしたのはクリスティアであり、そしてその事件を解決したのもまたクリスティアであった。


「畏まりました。どちらにせよわたくしの灰色の脳細胞を動かすには情報が足りませんわ。虎穴に入らずんば虎児を得ず。わたくしが後宮に入るのはいつ頃になるのでしょうか?」

「明日にでも。赤国に異国の客人が来るという噂は中央にすでに流れています。その客人に応竜帝が興味を示しているという噂も……なので私は護衛としていち早くあなたを迎えに来たのです」


 胸に手を当てて頭を垂れた雨竜帝にクリスティアは頷く。


「ではその期待を裏切らないようとびきり優雅に気品に溢れたお姿を皆様にお披露目いたしましょう……嫉妬心を煽られれば尚良いですわ」


 ニッコリと微笑んだクリスティアは、なんて素晴らしいのだろうと胸をときめかせる。

 応竜帝の目を惹き、夫人達の嫉妬心を煽り、焦りを生ませれば今まで見えていなかったなにかが見えるであろう。

 その見えないなにか、所謂呪いが、自身に降りかかるかもしれない期待にときめきが止まらない。


 ならばまずあの賑やかな通りに出ていたお店でこの身を彩る衣装を手に入れたいとお願いすれば夕顔が頷き外へと出て、待機していた侍女に声を掛ける。

 その姿を見送り、朱南長がぼそりと呟く。


「夕顔は朝顔を姉と慕っておりました。私達が青国へと逃れられたのはあの子の密告があったからなのです。残されたあの子は随分と酷い目にあったでしょう。それを耐えた子が自ら死ぬことに納得が出来ぬのです。後宮でなにが起こっていたのか正直私にはなにも分かりません。あの子と離れて随分と時間が経ちましたから……ただどんな事実であったとしてもどうか夕顔には必ずお伝えください」


 乞うようにクリスティアを見つめる朱南長だが、ああ言葉が通じないのだとすぐに落胆する。

 この心をどうにかして伝えたいのだが、夕顔に伝えてもらうわけにもいかず朱南長がもどかしく思っていれば、それを感じ取ったのかクリスティアは強く頷く。


「えぇ、ご心配なさらずに。勿論ですわ」


 その口から小さくこぼれ落ちたのは間違いなくこの黄龍国の言葉であった。

 淀みなく、流暢に零れたその言葉を吐き出すと同時に、しぃっと唇に人差し指を当てたクリスティアの緋色の瞳は悪戯に三日月に微笑む。


 夕顔は知らないのだろう、知っていたらわざわざ通訳なんていう面倒なことをしなかったはずだ。

 朱南長は驚き瞼を見開くとすぐに大きな笑い声を上げる。


 なんと恐ろしい少女だろう、だがそれ以上になんと頼もしいのだろう。


 買い物の手筈を整えて部屋へと戻った夕顔が、一人突然に笑い声を上げるそんな父親の姿を見て……眉根を寄せて訝しんでいた。

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