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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
呪われた龍の息吹
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赤国での再会②

「それで?ワタシがクリスティーを誘拐したと何処から聞きつけたヨ?ワタシは応竜帝と父にしかクリスティーを連れてくることを伝えていないネ」

「応竜帝から事情をお聞きしました。私を護衛にと命じられたのでこうして急ぎ参ったのです」


 お喋りめっと夕顔が唾を吐きそうな顔をして今この場に居ない応竜帝への文句を吐き出す。


「まぁ、そんな護衛だなんて……ご迷惑ではなくて?」

「全く、クリスティー様の護衛となれるのであればむしろ光栄です」


 幼い頃に習った王国の礼儀というものは意外と忘れないものだ。

 クリスティアを丹黄から受け取り、その手を引きエスコートをした雨竜帝は椅子を引くとそこに彼女を座らせる。

 それを見て一同も着席をする。


「道中、夕顔……紅龍妃から事件の概要はお聞きいたしました。後宮で多くの死が渦巻き、それは前応竜帝時代の呪いであると囁かれているとも……」


 一時、本題ではなく和やかな会談を続けたのは茶器を持った侍女が現れたからだ。

 皆の前にお茶を置き、頭を垂れて部屋から出たのを見送るとクリスティアは改めて本題に入る。

 準備された黄茶は甘い良い香りで気分が落ち着く。

 ラビュリントス王国ではあまり流通していないこの茶葉は生産量も少なく、友人であり商人でもあるシャロンがどうにかして安定して供給出来ないかと苦心している茶葉でもある。


「呪いなど……馬鹿馬鹿しいことです。そんなものがあるならば私や兄を真っ先に呪うはずです。夫人や子を狙うのはお門違いというものです」


 前応竜帝から皇位を奪い、恨まれているのは兄である現応竜帝で。

 寵愛を受けた側妃の子を一番に恨んでいるのはその母親であろうから……。


 父なら現応竜帝を、母なら雨竜帝を。


 この世に存在しない者からの呪いならば真っ先に、自分達を狙うはずだと雨竜帝は自嘲気味に笑う。


「呪いなどないという点ではわたくしも同意いたします。それに事件の概要だけ聞くならばまるで……雨竜様が王国へと来ることとなった理由に似ているとは思いませんか?」

「……そうですね」


 それは、四夫人の誰かがが嫉妬心から他の夫人やその子を害しているということ。

 過去に応竜帝の母親が嫉妬心から多くの側妃や子を殺したように、今、後宮では同じ事が起きているように見えるのだ。


「けれどもし、妃同士の嫉妬心だったとしたら真っ先に狙われるのは蒼龍妃のはずです。応竜帝が一番に大切にされているお方ですから……今回、前紅龍妃が狙われたのも変な話しですし、今までは子に不幸はあれど夫人達に害があったことはありません。それに継承権への不満から起きていることなのだとしたら兄の子ではなく、まず私を狙うはずです。次の皇帝への第一継承権を持つのは私ですから」

「……そうなのですね」


 黄龍国の第一継承権は今、応竜帝の子ではなく雨竜帝に与えられている。

 応竜帝の子が早くに亡くなっているということもあるが、例え子が生まれたとしても継承権の順番は揺るがないと皇帝が宣言しているのだ。


 自身の母親を思い出し、憂えるように茶柱の立つお茶を雨竜帝は見つめる。

 現応竜帝の母親の嫉妬心はいつだって真っ先に他の夫人や側妃に向かっており、子は常に二の次であった。

 母親を失った子を葬るなど容易かったからだ。


 雨竜帝は朝顔の死が、他の妃への不幸へと、彼女の残された子供への不幸へと繋がりそうで恐ろしいのだ。

 再びあの寂しく暗い嘆きの時代が来ることがとてつもなく恐ろしいのだ。


「皆様。皆様から見た前紅龍妃である朝顔様はどのような方だったのですか?自ら命を絶つような方だったのでしょうか?」


 夕顔の通訳を聞き、まず口を開いたのは朱南長だった。


「これだけはハッキリと言えます。私の知る朝顔は自ら命を絶つような子ではありません。あの子は前応竜帝の時代、大変苦労をした子です。我が赤族の前の首長の子だというのに母親の身分が卑しいという理由で色無しとして一族に下人のように扱われて……あの子を救い出したとき体はやせ細り、手はあかぎれだらけ、背中には鞭で打たれた傷が数多ありました。そんな時代を耐えた子が、憧れる相手に嫁げ子を儲け幸せだと言っていたあの子が自らの命を絶つなど考えられぬのです」

「色無し?」

「四族出身の者達はその国にちなんだ色を必ず名に入れるのです。赤国の赤族の者ならば赤にちなんだ色を。色無しは名を剥奪された罪人が付けられる名でその存在が咎人の証とされ……下人よりも更に酷い扱いを受けます」

「家畜と同じ……いや、餌を貰えるだけ家畜のほうがマシヨ」


 それはどんな生き物よりもさらに下、人として扱われない最下層の存在だと夕顔が嫌悪を滲ませた顔をする。


 元々は祝福の意味を込めて子に色を与えていたのだが。

 今や意味は変わり、色のない者は迫害の対象となっていた。

 色で身分を分けるなど頭の痛い問題だと雨竜帝が溜息交じりに答える。


「救い出した……ということは朱南長様はその頃、別の場所におられたのですか?」

「ワタシ達はその頃、青国へと逃れていたネ」

「私は前首長とは従兄弟の間柄でした。あの男はその座を誰かに奪われるのではないかと疑心暗鬼になり、自分以外の血筋を根絶やしにしようとしたのです。私達は逃げるしかありませんでした」


 それは突然の急襲であり、前首長と同じ血筋であるというだけで多くの者達が悉く根絶やしにされた。

 幼い子も女も老人に至るまで……血と炎に包まれ倒れた。

 その中には朱南長の妻であり夕顔の母も含まれており……姉妹のように育っていた朝顔と夕顔は仇同士となり離れ離れになるしかなかった。

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