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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
呪われた龍の息吹
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死の呪い②

「それに前応竜帝の時代にはこういったことは多く起こっていたヨ。夫人や側妃が子を身ごもったときには特に……現応竜帝が今、皇帝という場に立っていられるのは多くの異母兄弟の犠牲があったからネ」

「……つまり、妃同士の争いね」


 後宮という目的がハッキリとした狭い場所であるならば争い事は必然であったであろう。

 国が乱れていたときならば尚更に……闇に隠された内輪の争いごとは多かったはずだ。


「今回もそうだと思っているの夕顔?」

「……分からないヨ。今の応竜帝は妃同士の争いを酷く嫌っているから表だっての争いごとはないケド。でも朝顔は出自のこともあり四夫人の中では位が一番低かったネ」


 夕顔は深い溜息を吐く。


「白龍妃は次の子が出来ず焦っていたのか、子が出来た朝顔に嫌がらせをしていたと聞いているヨ。黒龍妃は元々どの夫人とも仲が良くなく、自分の手で子を育てている朝顔を敵視して無視していたと聞いているネ。後宮に入った頃のワタシも二人には随分とお世話になったヨ……あそこでまともなのは蒼龍妃だけネ。蒼龍妃は後宮でなにか諍いがあれば間に入りそれを諫める役目をしているヨ」

「まぁ、虐められているの夕顔?」

「ワタシが大人しくやられていると思うのカ?」

「ふふっ、そうね」


 夕顔ならば返り討ちにするだろう。

 現に新たしく据えられた夫人に洗礼とばかりに嫌がらせをした白龍妃も黒龍妃も倍の仕返しをされて、今や夕顔に近寄りもしない。


「クリスティー。今、黒龍妃が懐妊しているのヨ。それがワタシがオマエを誘拐した理由でもあるネ」

「……では後宮は喜びより恐怖が勝っているでしょう」

「そうだ。黒龍妃は神経質になって人を寄せ付けず、白龍妃は不安で苛立っている、朝顔の子を育ててくれている蒼龍妃は口にはせずとも不安そうにしていて……限られた者しか子に近付けさせないヨ。それにワタシが最後に受け取った朝顔からの手紙では新しい子が出来たら前の子が死にそうで怖いと綴っていたヨ……あれはそう思うなにかを知ったということネ。そして現に朝顔の先の子は次の子が生まれると事故で亡くなったヨ……ならば朝顔の子を守るためにもこの呪いを解かなければならないネ。ワタシは……これ以上の犠牲を出したくないのヨ」


 今、後宮に残されているの子は朝顔の遺児だけだ。

 そして次に生まれるのは黒龍妃の子。

 厳戒態勢となっている後宮はどんな堅牢な要塞よりも堅い守りであろうが……だがどんな場所にも思いもよらない抜け道はあるもの。

 既にその内に抜け道があれば……防ぐことは容易くは無く、呪いという暗雲となって今すぐにでも後宮を覆うことになるのだ。


「大体のお話しは分かりましたわ夕顔」


 すっかり辺りは暗くなり夕顔が壁に掛かる魔法鉱石の燭台に火を灯せば、薄らぼんやり明かりの灯った室内でクリスティアの金の髪が道を示す灯台のように輝いている。


「ではまず、どういった形でわたくしを黄龍国へと招待してくださるのです?誘拐しましたなんて正直に言うわけにはまいりませんでしょう?」

「クリスティーにはまずワタシの一族がいる赤国へ来てもらうネ。オマエとはワタシが賢妃になる前からの仲であり、今回は遊学のために訪れたついでに応竜帝に挨拶したいという名目ヨ」

「まぁ、ついでだなんて……失礼ではなくって?」

「ケッ、あの男ならば気にしないヨ。それに他の夫人達には事情を知らせてないが応竜帝には予め朝顔の件を調べるつもりだと伝えているからネ。いいか、オマエは謁見の際にワタシと離れるのは寂しから滞在を許して欲しいと涙ながらに訴えるのヨ。その訴えを応竜帝は無下には出来ないという設定だからネ。反対もあるだろうが……万事順調に後宮に部屋を用意することになるはずヨ」

「……学期の途中です。遊学ではなく傷心の旅行といたしましょう。あなたが知っているくらいです、黄龍国でも殿下があの子を可愛がっているというお噂が少しは広まっているのでしょう?」

「まぁ……オマエ、本当に婚約破棄するのカ?」


 確かにそのほうが怪しまれない理由ではあるが、あまり大っぴらにするべき内容ではないので夕顔は気を遣ったのだ。


 クリスティアと婚約者との間になにがあったのかは分からない。

 クリスティアを誘拐したパーティーでは確かに二人の間には余所余所しさがあった。

 だから夕顔はいとも簡単に彼女を連れ去ることが出来たのだ。


 だが二人の関係は簡単に切り離せるほど浅い繋がりではなく、どちらかといえば糸がこんがらって縺れているような……。

 あの婚約者は心配やら責任やらで真っ直ぐに伸びていない無数の糸でクリスティアをグルグルに巻き付けている……そんな印象を受けていたというのに。


 長く王国へと出入りし、クリスティアという少女と関わってきた夕顔が見てきた事実と違和感のある今回の婚約破棄の件に訝しむ夕顔の様をじっと見つめる緋色の瞳は、否定も肯定もしないが寂しそうに揺れているように見えたので。

 婚約破棄の意思を持つのは彼女ではないのだということが察せられ、夕顔はそれ以上の真偽を問う言葉を吐き出す前に飲み込む。


 どんな言葉もこの少女を慰めることにはならないのだから。


「……オマエも大変なときだというのに巻き込んでしまってすまないネ。もしかすると危険な目に遭うかもしれないから十分に気を付けるのヨ」

「まぁ、今更ですわ夕顔。問題はございません。全てわたくしの灰色の脳細胞のうちですわ。それにもしものときはあなたが守ってくださるのでしょう?」

「オマエは……ワタシに誘拐されたというのに暢気すぎるネ」


 事件を解くために誘拐されるだなんてこの灰色の脳細胞も喜ぶというもの。

 ニッコリと笑んだクリスティアの危機感のなさに呆れつつ、この調子ならば王国の婚約者殿はさぞ苦労していたことだろうと。

 そういったところに愛想を尽かしたのかもしれないとその心を慮った。

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