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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
呪われた龍の息吹
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ある妃の死①

「時間はまだあるネ、我が国の貨物船は早いといっても陸路よりかは大回り。3日ばかりは王国の国境を抜けないヨ、それまでは楽しい船旅ネ。そこから陸路で7日、じっくり考えて答えを……」

「いいえ、考える必要などないわ夕顔。わたくしの灰色の脳細胞を必要としているのならば喜んでお貸しいたしましょう」


 価値のない死を残すくらいならば喜んでこの事件に巻き込まれましょうと微笑んだクリスティア。

 すっかり冴え渡っている思考は自分が誘拐されたという事実よりも、事件への深い興味で活性化している。


「では早速、事件の概要をお聞かせくださる?」

「流石は悪名高きクリスティア・ランポール。オマエが事件に目が無くて助かるヨ。だが実はワタシも事件の始まりは詳しくは分からないネ……クリスティーは我が国のことを何処まで知っているカ?」

「そうですわね。黄龍国は我が国に次ぐ広大な領地を持つ帝国で、黄龍の生まれ変わりとされる皇帝を代々応竜帝と呼んでいること。そして黄龍の生まれた地である中央の応国を中心として、四神を祭る四族。朱雀を祭る赤族が治める赤国、青龍を祭る蒼族が治める青国、白虎を祭る白族が治める白国、玄武を祭る黒族が治める黒国が互いに競い合いながら成り立っており、後宮といえばそれぞれの四族の血筋の姫が応竜帝の四夫人として後宮へと迎えられ王子をお産みになられた方が皇后となるとお聞きしております」


 黄龍国はラビュリントス王国から東に位置する帝国で、先の戦争で王国と戦った相手がまさにこの黄龍国であった。

 王国の者が黒を忌避するのはそういった歴史的背景が多分にある。

 そしてそういった背景の中で妃を多く囲う後宮ハーレムは人権を無視した蛮族の行いという蔑視の代名詞でもあった。


「そうネ、とはいえ今は四族間の交流も増えてるからネ。正直、昔ほどの競い合いも不和もあるわけでもないし、オマエ達の国を見習って人権への配慮も進んでいる。ゆえに後宮も縮小傾向。前応竜帝時代は側妃も多くいたガ、今は四夫人以外の妃はいないネ」


 そしてその少ない夫人に望まずともなることとなった夕顔は深い溜息を吐く。

 薬屋という手に職のある夕顔が賢妃になるということはその多くが政治的な理由であったはずだ。


「前紅龍妃の自死が事件じゃないかと考え始めたのはワタシが新しい紅龍妃になって暫く経ってからダ。ただワタシもあれが死んだときは国に居なかったから……人伝に聞いた話で正直曖昧な部分が多くあるヨ」


 それは一年前に後宮で起きた悲劇であり。

 不審に思われなかった死に対する疑惑を夕顔の胸に湧き上がらせて、クリスティアを誘拐するに至った悲しき事件であった。


「前紅龍妃の元の名は朝顔。ワタシの従姉に当たる子で、今の応竜帝が即位した10年前に16の歳で賢妃となった子だったヨ」


 今の応竜帝は確か30歳の半ばを過ぎた辺りだとクリスティアは記憶している。

 前応竜帝時代、黄龍国の腐敗は凄まじく富は全て中央へと集まり地方は税の取り立てによって餓死者が多く出る状況であった。

 そんな状況を変えたのが疎まれた子であった現応竜帝。

 その即位は簒奪によって成したもので、圧倒的な武力を持って中央を支配すると前応竜帝の腐敗を暴き、贅を尽くし後宮を支配していた自らの母親を処罰し……多くの貴族、親族を粛正した冷酷なる皇帝であった。


 全ての体勢を一新し、新しくなった黄龍国は現応竜帝の簒奪をラビュリントス王国が支援していたということもあり。

 互いの交流は今、格別深いものとなっている。


「朝顔は応竜帝をそれはそれは尊び愛していたネ……崇拝するくらいに」

「あなたは違っているの?」

「冗談じゃないネ。ワタシはワタシをこの地位にした者を皆、恨んでるヨ。勝手に死んだ朝顔のことも……自分自身のことも……」


 夕顔は唾でも吐きそうなしかめっ面で言葉だけを吐き捨てる。

 こんな立場でなければ国を憂いたりせずに気楽に薬を作って売り、ただ自分の好きなことを思うままに……自由なことをして生活していたはずだ。

 だがそうしなかったのもまた夕顔の意思であるのだろう……。


「ワタシと朝顔は後宮に入る前から文通する仲だったから、入ってからも頻繁にやり取りをしていたネ。そのお陰で後宮の内部のことはそれなりに把握していたヨ、揉め事が起きれば解決策を文にして送ったりしてたネ。あれは自分の侍女に暇を出したときワタシを新しい侍女にしたがっていたけれどワタシは断っていたヨ。外へと自由に出ることの出来ない後宮に閉じ込められるのは御免だったからネ。でも断らずに側にいれば……あれが死ぬことはならなかったかもしれないヨ」


 伏し目がちに悲しく落とされた夕顔の視線。

 朝顔にとって夕顔が侍女にと望むほどに信頼出来る大切な存在であったように、夕顔にとって朝顔も……大切な存在だったことが窺える。

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