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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
幽霊屋敷と蝶の羽ばたき
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コレクションルーム②

「コホン。では、次は俺達が見付けた物を披露しよう」

「こちらですクシビア様」


 重苦しい空気を払うように、一つ咳払いをしてサンルームに名乗り出たのはロバート。

 フランを伴って壇上へと上がった騎士はお役御免となったユーリとアリアドネを一瞥する。


 舞台を譲り渡すために両膝を付いたアリアドネを支えるようにしてユーリは下がる。

 1幕から2幕へ。

 食堂を探した二人が見付けた物をリアースへと差し出す。


「手紙……ですか?」

「あぁ、こちらも多少の謎解きを必要としたがフランの機転によりこれを見付けることができた」

「いいえ、そんな……ロバート様が博識だったおかげです。こちらは食堂の鏡の裏に隠されておりました」

「あんな所に……」


 矢の刺さったリンゴの形をした金庫の中にあった宛名の無い封筒。

 すみれ色の封筒をリアースが開いて見れば、そこには一枚の手紙が入れられている。

 取り出したリアースの目には見慣れたモルフォの字が映る。

 柔らかく、少し右上がりの癖があるその字を、笑みを深めて撫でる。


「ふっ、彼女らしい手紙です」


 なんと書かれてあるのかは誰も問わない。

 胸に抱き締めて瞼を閉じたリアースを見れば、それは彼だけが知るべきモルフォが残した手紙であることが分かるからだ。

 誰かと共有すべき言葉ではない。


「ありがとうございます、確かに彼女が残してくれた手紙です」

「ではこちらがクシビア様が探していた物でしょうか?」


 問うたフランにリアースは頭を左右に振る。


「いいえ、これではありません。確かに、モルフォが残した物ですが……僕が探している遺言の物とは違います」

「……そうなのですね」


 折角見付けたのにと残念だ……肩を落とすフランにロバートが焦る。


「だが解いた謎はまさしく遺言の内容だったぞ」

「そう、なんですか?」

「それを言ったら私達だってそうだったもん」


 ロバートにとっては解いた謎より解いている間のほうが、フランと共に居られて一番楽しかっただろう。

 まさに遺言通りの謎を解いたというのに違うと言われて不満を表すロバートに、リアースは困ったように眉を下げる。

 だがそれを言えば客室を探したアリアドネ達だって、遺言の内容通りの謎を解いたのだ。


「必ずしも答えが一つだけだとは限りませんわ。あなた達が見付けた物も答えの中の一つなのでしょう、そうは思いませんかリアース様?」

「えっ……えぇ、そうですね。そうかもしれません」


 視線でリアースの指を示したクリスティア。

 その指にはシャロンと共に屋根裏部屋で見付けた指輪が嵌められている。


「では次はわたくし達が。ハリー、お持ちになって」

「はいはい」


 解いた謎が違うと言われ一悶着起きそうな空気を遮ったクリスティアがハリーを呼べば、彼は傅く家来のように3冊の日記帳をリアースへと差し出す。


「こちらは寝室で数多くの謎を解いて見付けたモルフォの日記帳です。抜けている巻がありましたが、あなたが既に見付けているのでしょうかリアース様?」

「えぇ、そうです。探し出せなくて困っていたので助かります。寝室にあるのは分かっていたのですが僕には謎が解けなくて……いい加減、壊してでも取り出すべきかと悩んでいたところでした」


 3冊の本を受け取り中をペラペラと見るリアース。

 そしてその5番目の日記帳の最後のページを見て、彼は悲しげに微笑む。


「この日記帳もあなたが探している物ではないのでしょうリアース様?」

「……あっ、はい。そうです、違います」


 日記帳から顔を上げればじっと自身を見つめる緋色の瞳が確信を持って告げる。

 その見つめ合った視線に、なんだか気まずくなったリアースは先に逸らす。


「リアース様。あなたは一体なにをお探しになられているのかしら?」

「えっと、だからそれは分からないと……」

「いいえ、あなたは自身が探している物がなにか分からないと言いながら、わたくし達が探し当てた物は全て探していた物とは違うとおっしゃっております。それはまるで最初から探す物がなにかを知っているかのような口振りです。あなたはモルフォが隠した全ての物を知らない、それは確かなのでしょう。ですがその中のなにか一つを探しているのは確かなのではないですか?」


 そう、探している物が明確に決まっているからこそ客室、食堂、寝室で見付けた全ての物が違うとリアースは言えたのではないのだろうか。

 だとしたら彼が探す物は一体なんなのだろうか?


「いえ、だから……」

「なにを探しているのか分からないのであれば、皆が見付けた数々の品物は遺言に則って見付けた物なのですから全て探していた物となるはずです。いいえ、実際モルフォは自身が残した言葉でそれらを解けるようにしていたのですから、その全てをあなたに探させようとしていたはずです」

「…………」

「思えば最初から不思議なことばかりです。あなたはモルフォのことに関しては饒舌に話をするというのに父親の話になると口を濁しますわね……まるでその存在を知らないかのように」

「…………」

「リアース様、あなたは一体なにを探していて……あなたは一体何者なのですか?」


 沈黙が広がると同時に恐怖が訪れる。


 寝室に飾られたリアースにそっくりな写真を見て彼が執事の息子だと確信したが、本当にそれは事実なのか?

 モルフォが残したという遺言は本当にモルフォが残したモノなのか?

 そして真実に彼が探す隠されたなにかとは……一体なんなのか?


 人の良さそうなリアースが急に得体の知れないなにか恐ろしい物体のように思えて……カイリが緊張感を持ってホルスターに指を掛ける。

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