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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
幽霊屋敷と蝶の羽ばたき
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寝室③

「日記だわ、モルフォの物かしら」

「見せて!見せて!お父様があなたをこの屋敷に連れてきた日のことを思い出した。あなたは私の物だと言われたことを……あなたは私であって私ではないなんて不思議な気分でこれからが楽しみだったはずなのに……今はあなたが私ではないという事実に戸惑うばかり。あなたはどう思うかしら?内容はさっぱりだね」


 クリスティアから日記を受け取り開いたページを読み上げるハリーだったが、その内容の意味が分からずに困惑する。

 これもなにかの暗号なのか……そう思いこの謎を解けるであろう唯一の人物を見ようとハリーが日記から顔を上げれば、その相手であるクリスティアは別の日記を手に持って立っている。


「どういうこと!?」

「あなたが開かないと苦戦した引き出しの中にあった日記帳です。どうやらこの部屋にはモルフォの日記帳が隠されているようね」


 2冊目の日記帳をハリーに渡したクリスティアは今度は別の謎解きに取りかかる。

 隠されていた日記帳(お宝)には興味がないようなので、謎解きの出来ないハリーは仕方なしに日記帳を読み進めてみる。


 なんの変哲もないただの日記だ。

 天気が悪くて苛立った話しや庭の花が綺麗に咲いた話し、それを押し花にして挟んだページやリアースに似た男のスケッチが書かれている。

 この日記帳の中には……くすぐったくなるほどの日々の幸せが溢れている。


「ねぇクリスティー、あのコレクションルームの地球儀のことも出て来てるよ。あなたが初めて考えて贈ってくれた地球儀、どうして地球儀だったのかしら?分からないけれど、プレゼントを選んでみてどうだった?って聞いた私に、君と僕は同じなのに欲しいものが分からなくて凄く悩んだって言っていておかしくなっちゃった。あなたの考えていることが私にも分からないように、あなたも私の考えていることが分からないのね。それはつまりあなたと私は別だという証拠じゃないかしら。地球儀のプレゼントは正直イマイチだったけど、あなたが悩んだ時間を思うと十分に素敵な贈り物だわ。このあなたって誰のことなんだろう?」

「……さぁ……分かりません」


 見つけ出した3冊目の日記帳をベッドサイドのテーブルの上に置いたクリスティア。

 どうやらこれが最後だったようで、まだ謎を解き足りないのかキョロキョロと辺りを見回すクリスティアは小首を傾げる。


「足りないわ」

「足りない?なにが?」

「謎解きの箇所は5カ所あったというのに本は3冊しかないの。2カ所は空だったわ」

「元々3冊しかないんじゃないの?残りの2カ所はハズレ、みたいな?」

「日記帳の背表紙に番号が振ってあるでしょう。わたくしが最初に見付けた物が3番目、そしてあなたが今持っている物が2番目、そして最後に見付けた物が5番目」

「あっ、本当だ」


 1番目と4番目が抜けている。

 やはり見ているようでなにも見ていないハリーに呆れながら、クリスティアは2番目と書かれた本の一番最後のページを見て、次に3番目と書かれた本の一番最初のページを見る。

 日記なので本と本の間に内容の繋がりはないが、書かれた月日を見るに2番目は3番目の続きであることは明白。

 そして3番目の最後のページを見て5番目の最初のページを見れば、そこに月日の繋がりはない。


 本が隠されていなかった場所。


 ただの空ろが広がる空間を見ながら、そこに隠されていたかもしれない物は何故ないのか、何処にいったのか……。

 いや、元々そこにはなにも仕舞われていなかった可能性も……と考えてクリスティアは眉を顰める。


 日記の抜けた巻と併せて隠し場所の数が同じであることを考えれば、元から無いということはあり得ないだろう。

 今、目の前に無い物の居場所を考えても分からないと溜息を吐き、クリスティアは見付けた5番目の本の最後のページを開く。


「あの巨大な魔法道具を使うときがきた。このプレゼントをあなたは気に入ってくれたかしら。あなたが私ではないという証明にあなたを残していくことを許して、あなたを愛するアナ・クシビアより。これが最後の日記なのかしら……」

「えっ!クシビアってリアースさんもクシビアだよね!?」


 最後のページを読んで日記を閉じたクリスティアにハリーが驚いた声を上げる。

 この日記帳の書き主であるアナ・クシビア、もしこの名がモルフォの本当の名前なのだとしたら……。

 クシビアの名を持つリアースはもしかすると……。


「ねぇ、もしこれがモルフォ本人の日記だとしたら……それってつまりリアースさんは……」


 開いていた口を閉じ、先を続けず黙ったハリー。

 同じ姓を受け継ぐということはリアースとモルフォに血縁関係か、それに準ずるなにか特別な、親族としての関係があったということではないだろうか。

 もしそうならば……何故リアースはそのことを黙っていたのだろうか。

 執事の息子としてではなく、モルフォの親族としてまず名乗り出ていれば……カイリに銃を突きつけられて理不尽な目に遭うことも、シャロンに泥棒だと怪しまれることもなかっただろう。

 この屋敷を受け継ぐ正当な後継者として、隠れてこそこそと遺言の謎を探すなんてことをせずに済んだはずだ。


 それに真っ先にその事実を伝えていれば、クリスティアがきっとこの屋敷がモルフォの物だという証明をする生き証人に大喜びしたに違いなく。

 この屋敷の正当な持ち主だと主張し、競売に掛けられたことは知らなかったのだから屋敷を売られたことを不当だと訴えれば……クリスティアの尽力の元、屋敷を取り戻すことも出来るかもしれない。

 なのにそうせず、自身とモルフォの関係を隠し、ただ残された遺言の謎を探す彼には、モルフォとの繋がりを知られたくない特別ななにかがあるのかもしれない。


「彼とモルフォの関係を知ることが……この屋敷に隠された謎を解く唯一の方法なのかもしれませんわ」


 見付からない2冊の日記帳。

 リアースとモルフォの関係。

 多くの謎を隠したリアースは一体なにを探しているのだろうか。


「この日記の内容、リアースさんにはなんのことだか分かるのかな?」

「恐らく。わたくし達が日記の内容を見ても抜けた巻がある以上、意味はないでしょう……それに人の日記を覗き見るなんて真似は無粋ですから止めておきましょう」

「うん」


 謎を解くはずが解いた謎によって新たな謎が生まれてしまった。

 日記帳を閉じたクリスティアに、人のラブレターを盗み見したみたいに心持ちが悪くなっていたハリーも頷く。

 もしかするとこの日記はモルフォがリアースの父親である執事にあてた手紙なのかもしれない、そしてそれを……息子に託したのかもしれない。


「じゃあ、二階の部屋はこれだけかな?」

「そうね……コレクションルームへと戻りましょう」


 クリスティアが腕の時計を見れば約束の2時間だ。

 少し前に下の階がなにやら騒がしかったので、良い結果を期待できるかもしれないと三冊の日記帳を持ったクリスティア達はコレクションルームへと向かった。

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