屋根裏部屋④
「商会の仕事をしてるとね古い屋敷の外観を査定して年代の特定とかもしないといけないから窓とかそういった物のことも勉強するの。それでね思い出したんだけどこの窓、弓型出窓っていって普通は天窓にしない窓なの。だから珍しいなと思って見てたらさっき太陽が陰った時に中央の窓枠に小さいけど鍵穴みたいなものが見えたわ。窓が開かないなら鍵穴なんて必要ないしこの菱形みたいな形って矢尻の形に似てるわよね?それにこの部屋、円形で珍しいし……もし部屋をリンゴに見立てているならリンゴが壊れた場所、つまり矢であるあの光りが差した場所になにか隠されてるんじゃない?何処に差し込んでた?」
「ここに……」
リアースが震える手で指差した場所。
シャロンの推理が正しければこの赤いラグの中央の下になにかが隠されているはずだ。
顔を見合わせた二人は急ぎ机を動かし、ラグを剥がしてみる……が、期待した床には特になにかあるわけではなく。
平らな木目の床に違ったのかと、リアースが肩を落としたところで……シャロンが人差し指で床板を触ってみる。
「ここ触ってみて、なにかある」
光りが差した辺りの床を指の腹で撫でてみれば、わずかにだが凹凸があるのが分かる。
リアースもシャロンに促されるままに撫でてみれば、確かに……指の腹に溝の感触があり、試しにとその凹凸に沿うようにして指で床板を押してみれば、半回転取っ手のように持ち手が現れる。
ゴクリと唾を飲んだリアースがその取っ手に指を引っかけて引いてみれば床板の一部が蓋のように外れる。
「なにかあるわ!」
外れた蓋の中をシャロンが覗いてみれば、そこには小さな円形の空間があり、中には弓が描かれた宝箱が入っている。
まさか本当になにかがあるとは思っていなかったのか、リアースは驚いて固まっている。
何故だか動けずにいる彼の代わりにシャロンが宝箱を取り出すと、その下に隠されるようにして置かれていた一枚のメッセージカードがあることに気付く。
少し傷んではいるものの、手にとっても問題はなさそうなメッセージカード。
書かれた文字を見て……シャロンはすぐにリアースへと差し出す。
「モルフォの物で間違いない?」
「……はい、間違いなく彼女の字です」
『最愛のあなたに。少しは私の気持ちが伝わることを祈って』
茶色く変色したメッセージカードを震える手で受け取り、書かれた文字を恋しげに撫でて頷くリアース。
そしてシャロンの持つ宝箱を受け取り開けば……そこには一つの指輪が入っている。
「ありがとうございます……あの……本当に……ありがとうございます」
「シャロンでいいわ、リアース。その指輪に価値はなさそうだから、ホーム商会が売っぱらわないようにあなたが持ってなさい。さぁ、クリスティーなら他にもなにか見付けてるかもだから……少し落ち着いたらコレクションルームに行きましょう」
宝石のない、銀色の手彫り模様が彫られたシンプルな指輪を持ち上げて抱き締めたリアースの声が震えている。
そこには一体どんな思い出があるのかは分からない。
だが大切な指輪なのだろう。
月日が経っているせいか輝きは失われ、少しくすんでいるが、リアースの目にはどんな宝石よりも輝いて見えているはずだ。
(指輪だなんて……二人はどんな関係なのかしら?)
指輪を見つめるその横顔を見つめながら、ホーム商会の家財リストから漏れた指輪なのだから誰が持っていても問題はないだろうとシャロンは見て見ぬ振りをする。
リアースの左手の薬指にピッタリと嵌まったその指輪に、彼とモルフォは一体どういう関係なのだろうかと改めてシャロンは不思議に思う。
父親が執事をしていたのならば……もしかすると、彼はモルフォの息子なのかもしれない。
彼の年齢を考えるに、子供が大人の道具であったことが往々にしてある時代の恋であろう。
雇用主と使用人との愛は許されないものであったはずだ。
付き合いを反対されたがお腹にはすでに子供がいて……。
産んだ子供は父親である執事と共にモルフォの元を去る。
私生児の扱いとしては昔ならばよくあった話しだ。
時が経ち、大きくなった子供は……母を恋しみ息子として名乗り出てると、あの遺言を預かったのかもしれない。
まぁ、なにが真実にせよ、あの指輪に込められたのは誰かにあてたモルフォの愛であることは確かだと、そんなことを考えながらシャロンは今にも泣き出しそうなリアースの背中を慰めるようにゆっくりと撫でるのだった。




