屋根裏部屋①
「信じられる!?女の子達との付き合いはあったけれど他意はなかった!全部情報を引き出すためだけで彼女達が勝手に勘違いしただけだって!」
「はぁ……」
「彼女達に悪いと欠片も思ってないの!ヘラヘラ笑ってあたし以外の人はどうでもいいみたいな言い方して!気を持たせるように仕向けたのは自分のくせしてあり得ない!本当に最低よ!」
怒りにまかせた盛大な足音を響かせながら階段を上がり、シャロンがリアースに案内されて辿り着いたのはそれほど高さの無い、恐らく180センチくらいであろうリアースが立てるくらいの円形の小さな屋根裏部屋。
外に張り出した四面の珍しい天窓から差し込む光が明るく照らす室内にはベッドと衣装棚、赤いラグの上には小さな円形のテーブルが置かれている。
埃一つない衣装棚、ベッドの上には読みかけの本……テーブルの上にはランタンが置いてあり、机の上にはリアースの手書きであろう×印の書かれた屋敷の地図が広げられている。
すっかり生活が整えられている様に、不法侵入だというのになんて図々しいと、今のシャロンにはその全てが腹立たしい。
「ていうかあなた不法侵入なの分かってるの!?なにこの部屋!完全に住んでるじゃない!」
「す、すいません」
このシャロンの怒りはとばっちりであることは明白だったが理不尽ではない。
対人警察を呼ばれて捕まるよりかは寛大な処置なので、リアースはその怒りを甘んじて受け入れる。
「はぁ!もう折角帰ってきたのに最悪の気分!クリスティーも屋敷の捜索が大変だからってよりにもよってハリーを呼ばなくったって良かったのに!」
「何処かへ行っていたんですか?」
ぶちぶちと文句を言いながら衣装棚の引き出しを開けて中身を漁るシャロン。
乱暴な扱いの中でも価値ある物を見つけると反射的に丁重に扱うのは商人としての性だろう。
そんなシャロンの荒っぽさを見て……リアースは早々に手書きの地図を片付け、ポケットにしまう。
「うち、ホーム商会っていって色んな国に行って買い付けしている貿易会社なの。各国に支店もあってね。あたしは小さい頃からその手伝いをしてて最近もその仕事関係でラビュリントス王国を離れていたの」
「そうなんですね」
そしてシャロンが汚した端から後を追うようにして綺麗に片付けていくリアース。
遺言探しより汚されるほうが気になるのか。
文句一つ言わずにあった通りに戻していく丁寧さに、八つ当たりしている自分が愚かしくなって……。
シャロンの怒りのボルテージも段々と収まってくる。
「実はドレスルームも結構荒らしたの……あなたの言う遺言の内容もさっぱり分からないし、ハリーは余計なことばっかり言ってくるしでイライラしちゃって……クリスティーに怒られちゃうから全部終わったら片付けを手伝ってくれる?」
「ははっ、えぇ勿論」
ムスっとしながら自身の行動を顧みて、物に八つ当たりをしたことを反省するシャロンに思わずリアースは肩を揺らして笑う。
怒ったり反省したり忙しないシャロンの素直な感情に、リアースはモルフォのことを思い出したのだ。
「彼女も……モルフォも、僕に苛立ったときにはよく物に当たっていましたよ。一度、ドレスルームにある服を屋敷中にばらまかれたときには頭を抱えましたけど……彼女の憂さ晴らしはいつだって僕を困らせることだったので、片付けは得意なんです」
憂さが晴れた後は片付けをするリアースを申し訳なさそうに柱の陰から見つめて、ごめんねっと一言謝ると一緒に片付けを始めるのが彼女との仲直りの合図だった。
冷静になったあと、仲直りをするまでの気まずそうなときのモルフォの姿が今のシャロンと重なって見えて……リアースは懐かしさに瞼を細める。
「あなたを怒らせた彼とは、恋人同士なんですか?」
「なにいってるの違うに決まってるでしょ!そんなんじゃないわ!」
喧嘩するほど仲が良いと言うし、リアースとモルフォとは違う二人の関係性に自然とそうなのかなと思ってリアースは口に出したのだが……シャロンは速攻で全力の否定をする。
ハリーがこの場で聞いていたらショックを受ける早さだろう。
「ですが、彼はあなたのことを随分と気に掛けているようでしたけど……誤解を解こうと必死そうでしたし」
「ハリーのあれはなんていうか……心配の延長みたいなものよ。そういう恋愛とかじゃないわ」
初対面のリアースにさえ分かるくらいに、ハリーはシャロンのことだけを特別に想っているように見えたのだが……。
シャロンはハリーの想いを嫌だというよりかは、気詰まりだと眉を顰めながら否定する。
「あのね、私の腕……傷跡があるの。ほらこれ」
なにかがすれ違っているのではないかと心配そうなリアースの表情に溜息を吐いたシャロンは右腕のバングルを外して袖を捲って見せる。
そこには途中、袖で見えなくなっているものの手首から肘に掛けて斜めに痛々しい傷跡が残されている。




