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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
幽霊屋敷と蝶の羽ばたき
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二階の書斎①

「ここにある書籍はどれも古い物ばかりですね」


 広いとは言い難いが一人が所有するにしては多い方であろう本棚の中の一冊を手に取ったエヴァンが呟く。

 一階へと繋がる階段を上がるとすぐにあるこの書斎は廊下の広い空間を改装して作ったらしく、部屋というより小さなホールのようだ。


 本棚に整然と並べられた本は大体30年以上前に発刊された書籍ばかりで、それより新しい物は一冊もない。

 どうやらバタフライ・モルフォは古い書籍ばかりを集めていたらしい。

 推理小説を執筆するならば新しい道具を使ってトリックを考える……なんてことは多々あるだろうに。

 小説家としては相当変わり者だったようだ。


「モルフォは本を読むことが好きでした。小説の執筆はモルフォにとって趣味みたいなものだったんです。実は言うと彼女は人物を描くのが苦手で、良く助言を求められていて……そういったこともあって彼女は自分が書いた本を世に出すつもりはなかったんです。自分達が楽しめればそれでいいからと……」

「まぁ、ではどうしてモルフォは出版をお決めになられたのかしら?もしかしてあなたのお父様がご説得なさったの?」

「えぇ、まぁ……そのようなものです」


 リアースが本を一冊、手に取り開く。

 それは80年程前に魔力の増幅について書かれた本だ。

 書籍の多くは戦前から戦中にかけての書籍が多いようで、モルフォは特に古書が好きだったようだ。


「でしたらわたくしはあなたのお父様に感謝いたしませんと。あのように素晴らしい作品を世に出してくださったのですから……お父様はどのような方だったのですか?」

「父はその……口数があまり多くない人でした。彼女の作品を楽しんでいただけているのならば良かったです。直接彼女に聞かせてあげたかったですけど……」


 そう言って眉尻を下げて笑うリアース。

 クリスティア同様にモルフォのファンは多い、そいったファンからの声は多々あったであろうに……リアースの口振からして本人には届いていなかったようだ。


「そういえばコレクションルームに飾られていた魔法道具は50年くらい前の物ばかりでしたね。当時は新しく珍しい物だったのでしょう」

「そうですね、友人達を呼んでお披露目会をしては驚かせていました。モルフォは悪戯好きでしたから」

「そういえば、あの地球儀はどうしてヒビが入っていたのです?」

「元は寝室に飾っていたんですが、モルフォが掃除のときに落として割れてしまったんです。新しいのを買うと言ったのですが……あれじゃなきゃ駄目だって言って割れたのを直してもらったんです」

「そうなのですね……」


 モルフォの話をするリアースの横顔は少し寂しそうで……クリスティアは敬愛する作家のことを知れる機会に舞い上がっていたが、あまり無遠慮にモルフォの話をするのは控えるべきだと開いた口を閉じる。

 彼にとってモルフォはまるで……美咲にとっての先生のようだと思ったからだ。


「あぁ、これは珍しい。ミサを作るときに私が参考にした本ですよ。魔力で作られたゴーレムは人なのか……あぁ、クシビアさんの名を何処かで聞いたことがあったと思ったら……この作者と同じ名前なんですね、もしかしてご親族ですか?」

「えっ、いいえ。彼と僕とには血の繋がりはありません」

「どういった内容なのです?」

「魔力が人を形作る源ではないのかという観点から、では魔力から生まれたゴーレムもまた人ではないのかという考察です。ゴーレムをいかに人間らしく作るかという内容もあり、倫理的な問題で今は絶版となっていますが面白いですよ」

「ゴーレムといえば労働目的に使用されることが多いですからね。それが人と変わりない存在となれば……都合の悪いこともありますから」


 ラビュリントス王国のゴーレムが人の形を成していないのもそういった倫理的な理由からだ。

 人と同じ姿であれば例えそれに知能が無かったとしても、誰かの魔力が無ければすぐに壊れてしまうようなものだったとしても……。

 奴隷のように見えていい気はしないだろう。


「……エヴァン先生。わたくしのミサは元気かしら?わたくしの元に戻るのを嫌がってはいなくて?」

「えぇ、元気にしていますよ。むしろ君の元に戻りたいと毎日愚痴を聞かされています」

「ふふっ、戻りたいと思ってくれているのならば良かったわ」

「ご友人ですか?」


 メンテナンスのために二日ばかり前からエヴァンの元に預けている自身の魔法道具のことをクリスティアは思う。

 預けるときは行きたくないと随分とふて腐れていたけれども、もしあの小さな魔法道具がクリスティアの元に帰りたくないと言っていたら、自由になることを望んでいたら……。


 そうしたならクリスティアはありったけの魔力を彼女に与えて彼女が好きな人生を歩めるように十分な支援をするつもりだ。

 そしてその実りある人生の中でいつかクリスティアへと会いに来てくれたら……彼女がいかにしてこの人生を生きているか、楽しんでいるのかという土産話に耳を傾けられたら幸せだと思う。


 それはだって遠い昔々に、ベッドの上で飽きることなく繰り返された日々と同じだから。

 この体が自由であろうとなかろうと愛しい人達の話を聞くことが出来れば、ただそれだけで幸せであれるのだ。


 懐かしい日々を思い出しながら、ミサがクリスティアのことを恋しがっている今の状況では好きなことをしなさいと言った日には、私を捨てるんですか!っと泣いて縋り付きそうだと、それが嬉しくてクリスティアの笑みが深くなる。


 そんな二人の会話をリアースが不思議そうな表情を浮かべて見つめ誰なのかと問う。

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