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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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対人警察の登場④

「はぁぁぁぁ……どんなに着飾ってもそうなるとなんの意味もないですねぇ」

「薄汚れた格好で着飾る喜びも知らずにそこら辺の路地裏で死ぬよりかはまだマシでしょう。年若い子ならば尚更。ま、若いお嬢さんのご遺体をこんなむさ苦しい男達の前で暴くなんていう冒涜は僕には出来ないからさ。君、君、このご遺体をさっさと解剖室に運んでよ。あとそこの新顔の君は死体に慣れたら僕の解剖室に来てもいいけどそれまでは絶対に来ないでよね、解剖する姿を見たら本当に吐きそうだ。胃に入れた物を吐き出す行為は全ての食物に敬意がないことの現れだよ。絶対に来させないでよねニールくん」


 よっこいしょっと立ち上がりソファー近くに居た鑑識官の一人に遺体の搬送を頼んでコンスチンはさっさと出て行ってしまう。

 どうやらラックは美食家コンスチンに嫌われたらしい。

 オールバックの髪の毛を掻き上げたニールは立ち上がり室内をざっと見回すとコンスチンの話と現場の状況を照らし合わせる。


 入り口から殺人が始まったのならば一番近い血液は扉の近くに擦過血痕に紛れて滴下血液があるのでそこで刺されたのだろう。

 短剣を振り上げたときの血であろう飛沫血痕が扉の上にまで付いているのを見るに犯人もある程度の返り血を浴びたはずだ。

 そして令嬢はソファーへ逃げてその背もたれに血が付いた?

 しかし絶命したであろう血溜まりはソファーから少し離れた場所に出来ている。

 しかも背は刺されていないので入り口から一度ソファーまで逃げたのならばその後で再び向かい合ったということになる。


 犯人に肩でも掴まれて向き合わされたのか?


 犯人にはそうまでして前を刺す理由があったのか?


 滅多刺しにしているのに前にこだわる理由は?


 犯人が素人ならば人がいつ来るかも分からない部屋でそんなことを考える余裕があったのかと殺害の状況と犯人の冷静さが一致しない現状にニールは考え込みながら、何故最後に遺体を移動させたのかと納体袋に入れられ担架に乗せられた令嬢が運ばれていくのを見ながらふむっと悩むように腕を組む。


「第一発見者は誰だ?」


 ニールが問えば外の空気を吸って少しばかり良くなった顔色のラックが右ポケットに入れられている縦15センチ横10センチの長方形の透明なタブレットのような物を取り出す。


「オープン」


 そのタブレットにラックが声を掛けると中央に絡まる二つの輪っかとその中央上部に目の形をした警察の標章が浮かび上がる。

 対人警察から支給されているそのタブレットは登録された声を認識して起動するタイプの魔法道具で、過去から現在に起きた解決未解決全ての事件をデータとして保存し、新しい事件が起きればその情報をリアルタイムで更新、全警察官に共有出来るタブレットだ。

 浮かび上がる標章にラックが触れるとそれがくるりと回転し、検索画面とその下に現在の位置情報から直近で起きた事件のリストが数個浮かび上がる。

 その中で一番上に来ているクレイソン邸殺人事件の項目に触れる。

 すると先程小鳥が飛んで録画をしていた事件現場の映像と共に遺体の氏名、殺害現場、現場の状況、殺害方法、第一発見者、通報時間、通報者の氏名などなど現状でハッキリしていることが項目として表示されている。

 ラックはその中の第一発見者の項目に触れ横へとスライドさせるとそこには微笑を浮かべたクリスティアの画像と発見までに到った簡単な経緯が浮かび上がり、ラックはそれを読み上げる。


「第一発見者はクリスティア・ランポール公爵令嬢ですね。公爵閣下の名代でこの夜会へユーリ・クイン王太子殿下と共に訪れていたみたいです。令嬢はこちらのゲストルームへ休憩に来たところ遺体を発見したとのことです。今は王太子殿下と通報者である宰相閣下のご令息、ハリー・ウエスト氏と共に別のゲストルームで待機をお願いしているみたいです」

「……そうか」


 やれやれよりにもよってと肩を竦めたニールはまだまだ終わりそうにない鑑識作業に、ここに居ても始まらないと、まずは第一発見者から話を聞くかと、ラックの顔色のためにも発見者の待つゲストルームへと重い足取りを向ける。


 貴族様との対談ほど疲れるものはない。


 ましてや相手はあのクリスティア・ランポールだ。


 面倒臭いことにならなければいいがと溜息を吐いたニールは、この事件の担当を割り振ったときの署長の全てを知っていたのだろうニヤケ顔を苦々しく思い出していた。

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