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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
幽霊屋敷と蝶の羽ばたき
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幽霊屋敷③

「間違いないわシャロン!この刻まれた傷も名も全てバタフライ・モルフォの作品に描かれたもの!モルフォの地球儀だわ!」


 興奮したように地球儀を掲げたクリスティアは、疑惑という夢の中から目覚めて断定された真実に現実へと引き戻される。

 耳に歓声を、瞳に輝きを、皮膚に興奮を……遮断していた感覚を全て取り戻し、身に纏ったクリスティアは地球儀を抱えると皆の方向へまるでワルツを踊るかのように振り返る。


「まぁ!どうしましょう!本当にバタフライ・モルフォの屋敷だなんて!」

「良かったねクリスティー!」


 見たこともないくらいに興奮しているクリスティアを見て、この屋敷を買って良かったと同じようにシャロンが喜んだところで、ガタガタガタっと何かが倒れたような籠もった音がコレクションルームの左手側から響き……この喜びに包まれた空気が一気に鎮火し、静まり返る。


「……今、なにか音がしたぞ」


 ロバートが警戒するように腰の剣に触れて音のした方角を見つめる。

 そこはただの壁で……壁のその先には二階へと通じる階段があったはずだ。


「あぁ、そうだなロバート。クリスティア、なにか物を落としたか?」

「いいえ殿下、なにも落としておりません」


 ユーリがクリスティアを見て確認したのはこの場で一番テンション高く動いていたのは彼女だったからだ。

 大切に抱えた地球儀をパートナーに踊りだしそうだったクリスティアはバタフライ・モルフォの屋敷と分かった今、この屋敷にあるものは埃の一つでさえ地面に落とすつもりはないといった表情を浮かべている。


「誰かなにか物を触った?ハリー、なにかしたんじゃないでしょうね?」

「俺はなにもしてないよシャロン!」

「誰もなにも触れていないわシャロン」


 真っ先にシャロンがハリーを睨んだのはこの中で一番信用していないからだ。

 悪戯でなにかしたのではないかと疑うシャロンに濡れ衣だと両手を上げるハリー。

 そんなハリーを一番後ろに立ち、皆の様子を全体的に見ていたフランが庇う。

 音がしたとき誰もその場から動いていなかったのだ。


「ね、ねぇ……お化けとか言わないでよね?こんなに明るいのに出たりなんてしないよね?ね?」

「おおおおお、お化けなんて!ばばばばば、馬鹿な!そそそそそ、そんなもの居るわけないって言ってるだろ!?」


 アリアドネが怯え近くにあったランタン型のスノードームの飾られた台座を掴み隠れるようにして身を縮めれば、それ以上に怯えたカイリがガクガク足を震わせながらティーセットの飾られた、このコレクションルームで間違いなく一番大きな長方形の台座の後ろへとアリアドネと同じようにして隠れ怒鳴る。


「……エヴァン先生?」


 そんな二人の恐怖を意に介さず、平然としたエヴァンが壁に近寄る。

 それにクリスティアが心配げな声を出せば、静かにというように人差し指を唇へと当てる。


「……隠し扉ですね」

「隠し、扉?」

「なんでそんなものが?」

「使用人用の通路かもしれませんわね」


 音のした壁を指の腹で横切るように撫でたエヴァンが微かにある凹凸を認識するとそこから離れ、小声で皆に伝える。

 それにカイリが怖々と台座から身を乗り出し小首を傾げ、ユーリがその存在に眉を顰めて訝しみ、そしてクリスティアが納得したように推理する。


「おい、勝手に行くな。皆、下がっていろ」

「ロバート様!」


 息を殺すように惹かれるようにして壁の扉へと近寄ろうとしたクリスティアを止め、騎士としての矜持を持ってまず先陣を切ろうとしたロバートをフランの手が衣服の袖を掴んで止める。

 その自分を見上げるフランの心配げな橙色の眼差しに、歩む足を止めたロバートは騎士としての矜持とフランから示される関心にオロオロと困ったように壁とフランへと視線を行ったり来たりさせる。


「こらこらこら。こういうときの為の大人なんですから、君達は後ろへ下がっていてください。さぁ、レーニック行って見てきてください」

「僕!?」

「この中で警察はあなただけです、市民を守るのが警察の勤めでしょう?」

「スカーレット先輩は!?」

「私はアドバイザーなだけで警察ではありませんし、今の職業は教師です。この子達を守るのが私の役目で、私を含めた皆を守るのがあなたの役目です。万が一あなたが幽霊に襲われたら、その間にこの子達を逃がすのが私の役目ですから」

「うぅぅぅ!」


 エヴァン・スカーレットという人物をこんなに慕っている可愛い後輩を生け贄にするなんて!やっぱり薄情だ!


 人でなしっと心で罵りながらも警察官のプライドとしてこの場から逃げるわけにはいかず……。

 恐怖を払うように呻き声を上げながらも銃型で雷の魔法を放つタイプの魔法道具を構えたカイリは恐る恐る壁へと近寄る。


「レーニック、恐らく扉は内開きの……」

「た、対魔警察だ!手を上げろ!」

「うわっ!?」


 どうやって扉を開くのかエヴァンが説明する前に、左足を上げたカイリは勢いよく扉を蹴り上げる。

 見た目に反して荒っぽい性格であることを忘れていたと、バタン、ガン!ガン、ガン……と勢い余って壁にぶつかり揺れるように開閉する扉をエヴァンが見ていれば、その先の暗がりで同じように驚いた表情を浮かべた青年が後退りし……逃げ出す。

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