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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
幽霊屋敷と蝶の羽ばたき
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幽霊屋敷①

 入り口での一悶着が終わり、門から雑草の生え割れたタイルの歩きにくい道を進み、屋敷の前に一同が立つ。

 蔦が這い回し陰鬱とした雰囲気があるものの古いという点と、平民街にあるにしては立派だということ点を除けば至って普通の屋敷。


「ね、ねぇクリスティー」


 先陣を切って歩いていたシャロンは屋敷を見上げるとその不気味さに息を呑み、一呼吸すると扉の鍵穴に鍵を差し込んでゆっくりと回す。


 その様子をワクワクとした気持ちで見ていればアリアドネがコソコソとクリスティアに近寄る。

 なんだか深刻そうに不安そうに揺れる瞳に、本当にお化けが出ると信じているのかしらとクリスティアは小首を傾げる。


「あのね、昨日言ったゲームでの幽霊屋敷のイベントなんだけど……」

「えぇ」

「じ、実はあの人なの……カイリ・レーニックが攻略対象者のときのイベントなの」


 チラリとカイリを見たアリアドネは、猫のように金色の髪を逆立ててツンケンしてるところが可愛い……じゃなくて、まさかこのタイミングで新しい攻略対象者が出てくるとは思わなかったと汗の掻いた両手を祈るように握る。


 対魔警察の若きホープであるカイリはアリアドネの糸の良心と言われていて、悪役令嬢を追う警察という役回りのお陰か攻略対象者が起こすバッドエンディングが一番少ないキャラクターだ。

 だがその分、悪役令嬢の策略によってヒロインと共に倒されるシーンが多く……その最後はどれも強烈であった。


 今、この世界のヒロインの皮を被っているのは自分。

 まさかとり殺されるエンディングになるのかとドキドキと不安に心臓を鳴らすアリアドネに、クリスティアの瞳がキラキラと期待に輝く。


「まぁ、それは……とても楽しい捜索になりそうですわね」

「ねぇ、どこが?」


 こっちは命がかかっているというのに……。


 幽霊になんて絶対に太刀打ちできないと訴えるアリアドネの心配に幽霊より怖い、悪役令嬢の皮を被った悪魔がニッコリと微笑む……。

 どうやらこの事実を伝える相手を間違えたらしい。

 なにかしらの事件が起きることを期待しているクリスティアに助けを期待できないとアリアドネが悟ったところで、ガチャと重く堅い音が響く。


 そしてキィィっと扉が独りでに開く。


 建て付けはあまり良くないらしく、開いた扉の先では薄暗い玄関の間と奥へと続くそこまで広くはない長い廊下が広がっている。

 しんっと静まり返った屋敷内は生きている者が誰一人としていないことを告げる静寂。

 だが思っているよりかは室内は荒れておらず。

 ホーム商会がある程度片付けたのか、棚や調度品にあまり埃は被っていない。

 一歩シャロンが足を踏み入れれば軋む床の音が辺りへと響き渡る。


「取り敢えず皆さん離れないように一部屋一部屋を見て回りましょう。誰かが消えて居なくなった……なんてことにはならないように」

「なんでそう余計なことばっかり言うんだよ!?」

「レーニック、あまり強く引っ張らないで下さい。歩きにくいです」

「スカーレット先輩はいつだって薄情だ!」


 クリスティアの一言にカイリがエヴァンのコートの背中をがっちり掴んで文句を口にする。


 襲い来る恐怖を声を出して振り払っているのだろうが、そんな怒り気味に薄情だと言われても……。

 エヴァンにしてみれば服を強く引っ張られると歩きにくくて仕方ないのだ。


「庭の手入れがされてないからか、やっぱりどこか薄暗いね」

「そうねシャロン」


 シャロンが壁のスイッチに魔力を込めればシャンデリアと燭台に明かりが灯るが、カーテンの閉じられた室内ではその明かりは暗闇に灯る希望の光りというよりかは出口のない洞窟で灯したランタンの明かりように、明るくはなれどより一層の閉塞感を感じさせる。


 特に変わったところのない食堂を見回して奥へと進めばそこは厨房。

 食材を入れていたのだろう空の籠に数々の調理器具。

 窓を遮るカーテンがないせいか人工的な明かりよりかは閉塞感はなく、庭に出ることは出来るがそこから廊下へと出られない造りになっていたので一同は食堂へと再び戻り今度は向かい側、玄関の間から左手側の広い客室へと入る。

 年代物のソファーに机、花の生けられていない花瓶。


 今すぐにでも人が住めそうなほど整えられた室内には、死んでいる人間というより生きている人間の気配を感じさせ……ユーリが気味悪げに顔を歪める。


「こうも整えられていると今にも住人が現れそうだな」

「そうですわね殿下」

「そういえば、うちの従業員が放置されてた屋敷にしては室内が綺麗で驚いたって言ってた」

「今日のためにホーム商会の方が片付けをされたのではないのですか?」

「ううん、フラン。うちの商会にそんな気の利く人はいない」


 時給を払えば片付けくらいしてくれるだろうが……ホーム商会の人間は総じて守銭奴な奴らなのだ。


 棚の上を人差し指で撫でたシャロンのその指先は汚れず綺麗なまま。

 建て付けは少し悪くなっているものの劣化の少ない家具を見ながら客室を通り、一番奥の扉を出れば目の前には二階へと続く階段と、右手横には別の部屋がある。

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