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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
幽霊屋敷と蝶の羽ばたき
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平民街の幽霊屋敷②

「そうだったのですね、私達は空き家だと窺っていたので見に来たのですが……」

「対魔警察がわざわざ見に来るとは、なにかあったのか?」

「別になにもない!」

「えぇ、ユーリ殿下。実は5日ばかり前にこちらの屋敷から不明の魔力検知があったので調べに参ったのです」

「スカーレット先輩!」


 何故言うのかという非難の声を上げるカイリだが、エヴァンはなにが悪いのか分からないというように小首を傾げる。

 どうやってこの屋敷内を調べるかと思案をしていたところだったので、彼女達と出会ったことは自分達にとってまさにいいタイミングだったではないかと言わんばかりに。


「丁度良いではありませんか事情を説明して一緒に中に入れてもらえば。警察が不法侵入するわけにはいかないでしょう?」

「それは……そうですけど……」


 こっそり庭先まで入って窓から中を覗くくらいしようかと相談していたところだったので、中に入る権限を持っている者がこの場に居るのならば便乗させて中に入れてもらうのが一番良い方法だろうというエヴァンの至極当然な判断なのだが……カイリはクリスティアの手を借りるのが心底、嫌だと表情に出す。


「5日前だったらうちの商会の者が屋敷の品物とかを調査した最終日なので、そのときの魔力じゃないんですか?」

「ホーム商会がですか?そうですね、商会の方が使用した魔力はその時だけですよね?」

「そうですね」

「私達が検知した魔力は現在も昼夜問わず継続的に使用が続いているんです」

「一応確認のために人の出入りがないか二日前から対魔警察が調べに来てたんだけど人の出入りは無かったし。なにか魔法道具の誤作動でそれを放置しているならいいけど……空き家でこれだけ長い間、継続するのはなにか不正なことに利用されてるんじゃないかって疑いもあるから僕達が見に来たんだ」

「こちらを見てください」


 エヴァンがタブレットを取り出し皆に見せたのはこの地域一帯の地図で、そこには確かに現在この幽霊屋敷を覆うように大きく魔力の反応がある。


「実はここ最近、戦時下に使用されていた魔法道具が民家などで多く見付かっているんです。時代が時代でしたから安全性のないグレーゾーンの品物も多く、きちんと処理しなければ暴発などの恐れもあって私達が見に来たんです」

「そう、ですね……深夜に魔力反応があるのはおかしいです」

「ねぇ……ここって幽霊屋敷って呼ばれてるんだからさ、もしかすると幽霊の反応とかじゃないよね……?ほら幽霊って特別なエネルギーを発するって言うし」

「ゆゆ、幽霊ってなんの話しだ!?そんなモノ居るわけないだろ馬鹿らしい!」


 シャロンが訝しむ中、怯えたアリアドネが頬を引き攣らせながらタブレットに表示されている反応を見て、まさかまさかの想像を口にしてクリスティアの背中に隠れる。

 それにカイリも頬を引き攣らせると、一歩足を下げてエヴァンの後ろに立つ。


「という訳なので、謎を解明するためにもご一緒しても構いませんか?」

「せせせ、先輩!?」

「どうするクリスティー?」

「そうですわねシャロン……エヴァン先生はこの幽霊屋敷に入る勇気がおありなようですからご一緒されるのに問題はないと思います。エヴァン先生は自ら入ることをお願いされましたし……ですがカイリ様、あなたはどうなさいますか?恐ろしいのならば無理にご一緒されなくても良いと思います。もしご一緒に中へと入りたいというのならば明確にご一緒したいという意思表示をしていただきませんと……わたくし、あなたが本当にご一緒したいのかどうかの判断がつきませんわ」

「うぐぐっ!」


 ニコニコとからかうように笑みを深めるクリスティアに下唇を噛み締めるカイリ。


 ここが幽霊屋敷と呼ばれているなんて知らなかった……魔力とはいわばこの世界の科学。

 科学者であるカイリにとって魔力で証明できないことは信じるに値しない妄言であるべきなのだが……同時に証明できないからこそ恐れていることでもある。


 心底行きたくない、だが対魔警察として行かなければ示しが付かない。

 自分をからかおうと待ち構えるこの少女を前にして怖いだなんて思われたくないというプライドと、未知なるお化けが怖いという恐怖心を、表情に有り有りと浮かべるカイリは精一杯の虚勢を持ってクリスティアを睨みつける。


「ぼ、僕だって別に怖くないし!対魔警察が幽霊なんて信じるわけないだろ!僕も連れてってください!お願いしますっっ!!」

「まぁ!カイリ様!今、屋敷の方でなにか動きましたわ!」

「ひえっ!?ど、どこ!?」

「あら、ただの木の影でしたわ……風で揺れたのかしら?」

「こらクリスティア!」


 これでどうだと言わんばかりに胸を張ってお願いする、誰がどう見てもお願いしている態度ではないカイリに、クリスティアが驚いたよな声を上げて唇を震わせ屋敷の方角を指を差す。


 一斉に皆がそちらを向くと同時に、一番に飛び上がって驚いたカイリがエヴァンの腕に縋り付く。

 だが、当たり前だがそこにはなにもなく……風に揺れる木々の影にクリスティアの悪趣味な悪戯だと分かると、同じく驚いたユーリが恥ずかしげに咳払いをするとクリスティアを窘める。


「この赤い悪魔め!お前!ほんとに!嫌い!」

「まぁ、そんな……わたくしはただ楽しんでもらおうとしただけなのに。悲しいですわカイリ様」

「どこが楽しいんだよ!?」

「あまり虐めないであげてください」

「ふふっ。だってエヴァン先生、威嚇する様が可愛らしくてつい……ではご一緒いたしましょう」


 からかわれたのだと分かりぷるぷるとを身を震わせるカイリのまるで言葉を覚えたての拙い子供のような抗議に、顔を背けて悲しいふりをするクリスティア。


 カイリのその反応の良さがついからかいたくなるのだ……。


 こらえきれない笑みをその頬に浮かべるご機嫌そうなそのクリスティアの横顔に、エヴァンが苦笑いを浮かべるのだった。

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