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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
幽霊屋敷と蝶の羽ばたき
345/630

平民街の幽霊屋敷①

 ランポール邸から馬車に乗って約30分、そして悪路で進めないという理由で馬車から降りて雑木林を20分ほどの歩いた平民街の外れ。

 思っているより広大な庭(中規模の貴族の屋敷ほど)は手入れのされておらず。

 雑草が生え、錆びた門から玄関まで続くタイルは至る所がひびで割れている。


 なるほど、日を遮るほどの木々達に覆われた薄暗くこの陰湿な雰囲気はまさに幽霊屋敷である。


「お待たせしてしまいましたねフランさん、それにロバート様もご一緒だったのですね」

「いいえ、私達も先程参りました。この度のことをお手紙でお伝えしたらロバート様も是非ご一緒したいとのことで……お連れしたのですがよろしかったでしょうか?」

「ふん」


 薄桃色のイノセントドレスにカチューシャ姿のフランと、その斜め後ろをまさに忠犬のようにピッタリとくっつく騎士服を着たロバート・アスノット。

 つい最近までフランに怖がられていたというのに今やすっかり彼女の護衛騎士のような振る舞いに、フランも満更でもなさそうなので着実に二人の仲は進展しているのだろうとアリアドネがほくそ笑む。


「わたくしも殿下とハリーをお呼びしましたので問題はございませんわ。そうでしょうシャロン?」

「騎士って粗暴なんだから、品物を乱暴に触って壊したりしないでよね」

「それくらいのことは心得ている!」


 切れ長の水色の瞳を鋭く吊り上げてシャロンを睨むロバート。

 思いの外、大所帯になってしまったが庭の広さから見て屋敷もそれなりに広いだろうからまぁ、問題はないだろう。

 幽霊屋敷の住人である幽霊にとっては騒がしくて迷惑な話だろうが……。


 クリスティアの義弟であるエル・ランポールもこの調査に加わりたがっていたがあまり多くては迷惑になるからと留守を任せ、代わりに今度一緒に出掛ける約束をしてけれども、こんなことならば連れてきても良かったとクリスティアが思っていれば、あーー!!っという大きい声が幽霊屋敷全体に反響したかと思うとバタバタと忙しい足音が一同に向かって近寄ってくる。


「クリスティア!ランポール!お前こんなところでなにしている!!」

「こんにちは皆さん、何故こちらに?」


 見ればフードと腰ベルトの付いた黒いケープコートと同じ黒いズボンを揺らした駆け足で、ミディアムヘアのキラキラと輝く金の髪を風に靡かせて、警戒心の強い猫のような鋭い黄金色の瞳を吊り上げた背の低い男が、黒いアルスターコートとズボン姿の魔具師でありラビュリントス学園の教師であるエヴァン・スカーレットを引き連れて現れる。


「まぁ、エヴァン先生。それにカイリ様、お久し振りです」

「またなにかを聞きつけてきたんだな!この疫病神!」


 キャンキャンと吠えているこの少年のような青年は魔法で起きた事件を解決する対魔警察の刑事であるカイリ・レーニック、幼く見えるが成人済みである。

 いつもはサラリサラリと絡むこと無く流れる金糸のような髪を逆立てて威嚇しているのは、クリスティア・ランポールという少女が事件に関わると碌な事にならないと知っているからだ。


 そんな警戒するカイリの隣に当たり前かのように立つエヴァンはラビュリントス学園の教師でもあるが、魔法道具を扱う魔具師として対魔警察のアドバイザーとして度々事件の捜査に参加することがあるのだ。


「スカーレット先輩!まさかこいつらを勝手に呼んだんじゃないですよね!?」

「誤解ですよレーニック。偶然ですから揺らさないでください」


 腕を掴んでガクガクとエヴァンを揺らすカイリは小さい割りに力だけはある。

 揺らされながらも、どうしてここにクリスティア達が居るのかは知らないと否定するエヴァンに、訝しみながらもカイリはパッと手を離す。

 エヴァンは何度か事件の情報をクリスティアに漏らしたことのある常習犯なので信用はされていない。


「先輩が呼んだんじゃないならなんでこいつらが居るんですか?」

「それは私ではなく本人達に聞くべきかと。あともう少し言葉遣いを選んでくださいレーニック」


 クリスティアの姿ばかり見て警戒心が先立ち他の者達が見えていないのだろうが、この場には王太子殿下であるユーリの姿もある。

 媚びを売れというわけではないがある程度、丁寧に接しないと対魔警察に与えられる国家予算とかに色々と不都合があるだろうと、カイリの上司が頭を抱えることにならないようにとエヴァンがやんわりと忠告するのだが……。


 対魔警察のエースであり、絶対なる自信しかないのがカイリであり、態度を改める気がないのもまたカイリであるので、本人達に聞くのが尤もであるという都合のいい部分だけ耳に入れるとふんぞり返ってクリスティアを見る。


「お前らなんでここに居るんだ?」

「こちらの屋敷はホーム商会が購入された物件です。本日は中の品物を改めるためのわたくし達は手伝いに参りました」

「これが証明書です」


 シャロンが不服そうに屋敷の所有証明書をカイリに向かって突き出して見せたのはクリスティアへの態度が悪いからだろう。

 クリスティアはクリスティアでそんなカイリの態度が懐かない猫のようで可愛いのだが……。

 ホーム商会名義の証明書を見せれば納得したようにカイリは不承不承ながらも警戒心を少しばかり解く。

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