変わった彼女達の運命⑤
「結局なにをしたところで、シャロンが生きててハリーの鬱展開がないこの世界が私達の本物の世界なんだから……前世は前世。私達の世界は私達が死んだって結末以外は無いんだよ」
「そうね……ねぇ、ハリーったらゲームでは余程酷い人生を送っているの?」
「女の子をとっかえひっかえしてるクズ野郎だし、ヒロインに恋したら凄い束縛してくるし……シャロンを死なせてしまった後悔はしたくない、シャロンみたいに居なくなって欲しくないって事あるごとに言ってて……面白がった私のフォロワーさんがシャロン教で世界を制するハリールートの二次創作出してた。バッドエンディングではヒロインの死体を剥製にして一生側に置くってのもあるし、相当病んでたわ」
「まぁ……ハリーったら」
「だからあんな風にシャロンに拒否され続けてたらハリー、そのうち病みそうだよね。シャロンが生きてたらてっきりラブラブなのかと思ってた」
「バングルの件もですけれど、ハリーは一途すぎるところがございますから」
ゲームでも確かにそうだった。
束縛バッドエンディングが数多くあるのがハリールート。
プレイしているときは一途、良いではないかとそれが悪いこととは思わなかったけど……現実となれば鬱陶しいかもしれないと、あのシャロンのためだけに作っているという美しいバングルのことを思い出す。
「あのバングルってなにか意味があるの?」
シャロンの右腕にも巻かれていたあれもハリーの手作りなのだろう。
小首を傾げたアリアドネにニッコリと笑ったクリスティアは、意味はあるけれども自分が口にすることではないというように噤む。
その姿にアリアドネも凄く気になることでもないので、それ以上聞き出す必要もなく。
それよりも重要なことを言い忘れていたことを思い出す。
「そうだ!今回の幽霊屋敷の話!実は似た物語がアリアドネの糸で出てくるんだよね!」
「まぁ、そうなんですか?」
「うん!でも確信はないの。このシナリオルートに進むはずの攻略対象者が出て来てないから。でもディオスクーロイ公国の事件は元はペルセポネの実の物語に似てたわけだし、今回だってそういった似たルートってことかもしれないでしょう?」
「そうですわね。アリアドネの糸ではその幽霊屋敷ではどういった事件が起きるのですか?」
「事件なんて起きないわ。ゲームの幽霊話はなんていうか物語のスパイス的な?悪役令嬢が邪魔なヒロインと攻略対象者を人里離れた屋敷に閉じ込めるっていう親密になるだけのイベントなの」
「……事件が起きないのでしたら、不安に思う必要はないかと」
「チッチッチッ、事件が起きないからって安心できないのがアリアドネの糸!実は幽霊屋敷の幽霊は本物の幽霊なの!幽霊屋敷で彷徨い続けるお化けなの!」
おどろおどろしく両手を胸まで上げてお化けの真似をするアリアドネに、随分と可愛らしい幽霊だこととクリスティアは微笑む。
「ちょっと、幽霊なんて怖くないって思ってるでしょ?そりゃ、私みたいな可愛い子がお化けとして出て来たって怖くもなんともないかもだけど、この幽霊屋敷に出てくるお化けは目玉が真っ黒のガチ怖イラストなんだから!しかも幽霊が問う謎を解かなければとり殺されるっていうバッドエンディングも転がってるの!無事に脱出したあとに屋敷の中から恨めしげにこっちを見ている幽霊のイラストがもう本当に怖くて……当時SNSは大荒れだったわ」
その恐怖イラストを思い出してブルリと身を震わせるアリアドネ。
しかも問われる問題はランダムだったので、2週目以降に物語をオートモードにして進めていると問題を聞き逃し選択肢を間違えて詰むなんてこともある意地悪仕様だった。
「まぁ、ですがご安心なさってアリアドネさん。どれだけの難題をその幽霊に出されたとしてもわたくしが謎を解けないなんてこと……あると思いますか?」
「……確かに」
自信と確信を持ってそう告げたクリスティアの説得力に、脱出は確約されているのならば幽霊屋敷も怖くないのか?と納得する。
そんな無駄話をダラダラと続けているとクリスティアの自信ある姿を神々しげに見つめるルーシーにそろそろ咎められそうなので、劇に使った制服を洗濯に出すために、アリアドネはメイドとして頭を垂れてクリスティアの部屋を辞するのだった。




