変わった彼女達の運命③
「どちらにせよこの世界はゲームとは似て非なる世界なのですから……これから先、どういった行動を取るもあなたの自由であり、その責任は全てあなたにあるということよアリアドネさん。事件を起こした者達の責任はその者達にあるように……」
微笑みを浮かべたクリスティアを見てアリアドネは目をパチクリとさせる。
それはシナリオを知っているからこそ、理不尽に命を奪われる者達を自分が救わなければと気負っていたアリアドネの心を見透かしてその肩の荷を降ろそうとしてくれているかのような……そんな優しさ。
でもそんなことを言われても……。
アリアドネの糸というゲームを指針として今日の今日まで生きてきたアリアドネは、途端に自由になりましたと言われても……それはそれで心許ない。
「結局のところ結末が無数にあるマルチエンディングってことに変わりないもんね……だったらさ、これから先に起こる事件のネタバレしてもいい?シナリオにないかもしれないし……起きそうだったらその前に阻止をして被害者を助けようよ」
「相手にはどうお伝えするのですか?あなたを亡き者にしようとしている者がいますだなんて……それこそ頭のおかしな人になってしまいますわ。起きるかも分からない、もしかすると加害者と被害者が心から仲の良い関係だったのにわたくし達の介入によって猜疑心を埋め込むようなことになります。被害者が加害者になりかねないことは理に反することです。事件は起きるときには起きるもの、そして起きたときにこそ解決するべきものです」
「それってただ単純にクリスティーが起きた事件を自分で解決したいだけでしょう?」
事件を未然に防がないことのほうが倫理に反することだと突っ込んだアリアドネにクリスティアは、ふふっと微笑む。
九割方彼女が言う通り、起きた事件をクリスティアは解決したいのだ。
「ねぇ、アリアドネさん。わたくし達が生きた前世のお話しを物語にするのも良いかもしれませんわ。そうしたらこの世界の誰かがわたくし達の前世に転生したときにこれはこの世界で読んだ本の内容だと驚くことになるかもしれませんから……とても面白いことではございません?」
「えーー、確かに面白そうだけど。そうなると主人公が転生者になるのが定石だけど……誰を主人公にするの?空想の人物だったら意味なくない?」
「まぁ、あなたを物語の主人公になさったらいかがです?」
「……特にイケメンとの絡みも波乱もない社畜人生だけど……なにが面白いの?」
「あら、物語は物語。多少の脚色は許されますわ。あなたの初恋の物語を美しく劇的に描くのもまた一興だとは思いませんこと?」
「残念ながら私の初恋から最後の恋までずっと現実には居ない人だったわ……同級生の名前も同僚の名前すら覚えてないんだけど」
青春を捧げなかった学生時代の異性関係も、社畜人生を共に生きてきた同僚も……残念ながら誰一人として文代の胸をときめかせることはなかったし、誰かが文代にときめくこともなかった。
「それは……残念ですわ。とはいえこの世界の誰かが例えあなたに転生したとしても……ただ同じ名であるというだけでその方はきっと別の人生を歩まれるでしょうね。わたくし達のように」
確かにそうだ、所詮パラレルワールド。
もう死んでしまった文代の人生はどう足掻いたって戻ってこない。
だったらこれからもし、この世界の誰かがパラレルワールドで生きる文代の世界へと転生をするのだとしたら……文代の脚色されまくった恋愛物語より、美咲の人生のほうが物語にする価値があるのではないかと思う。
お金持ちなわけだし、それに殺されるという運命を辿るなんて物語にするならば十分にドラマチックだ。
生存ルートを探り、犯人を捜すだなんてまさにミステリー小説。
「脚色されまくった誰かの恋愛小説なんかより、文代が美咲を殺した犯人を見付ける探偵小説のほうが面白そうじゃない?その記憶を持って転生すれば犯人のネタバレもあるわけだから事件が起きる前に未然に防げるかも」
そうすれば前世というこの世界の知識を持った誰かが文代に生まれ変わっても、ドラマチックで意味のある人生を歩めるかもと考えるが、アリアドネのように生まれた時から前世の記憶があればいいがニュース映像を見て前世の記憶を思い出してこの事件は!っというパターンもあるし、それだと結局は美咲は死んでいるのだから流石に不謹慎すぎたっとルーシーの殺気を感じて慌てて口を押さえる。
だがそんなアリアドネを見て、クリスティアはキラキラと瞳を輝かせる。




