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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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対人警察の登場③

「コンスチン博士、早いお着きですね」

「やぁやぁニールくん、僕はなんて鼻の効く紳士だろう褒めてくれたまえ。たまたまこの醜悪な夜会に出席していてね。実にセンスのない邸だろう。何処を見ても金、金、金、金!金しか色がないと思っているのかね、まったく!人間の体に流れているのは赤だ!赤が至高だというのに下劣極まりない!だがまぁそれを差し置いても料理だけは素晴らしいと聞いてね。話に聞いたとおり、菜食主義の公爵家の夜会を断った甲斐があったってものだよ。生ハムと野菜の乗ったあの素晴らしいレバームースのカナッペを食べられた僕は幸運だった!今日一日の最高の瞬間だったよ!」


 とはいってもその最高はすぐに転落したけどねっと遺体を不満そうに見ながらも、いつもよりご機嫌なのは最高の料理を堪能できたおかげか。


 感服のいい体を白いウイングカラーのシャツで包み赤い蝶ネクタイ、縁どりは濃く他は明るい灰色のジャケットとズボン、鼻の下の白い口髭を整えた白髪頭の初老の男性はニールとは数多くの事件で顔なじみであり、たまたまこの夜会に出席していた監察医であるコンスチン博士である。


 料理の話を聞いて味でも想像したのかラックが吐きそうになっている。


「なんで引き摺ったと分かるんですか?」

「入り口のあの血溜まりではこの少女が倒れていたところまで動く力はなかっただろうし、お腹をこれだけ刺されているのに背中に傷が一つも無いからね」


 仰向けにされていた死体の穴だらけのドレスを示し覆い被さるようにその肩を持ち上げて、近寄って片膝を付いたニールにその背を見せる。

 確かに背中は穴の開いていない白い綺麗なドレスの形状が残っている。


 検死のためにバルコニーへと続くアーチ状の窓際に移動されたらしい少女の遺体が、入り口の血溜まりから同じように本来横たわっていたであろうソファーの下の血溜まりまで逃げるつもりで這ったのならば逃がすまいと追ってきた犯人によってその背中に短剣を突き立てられていたはずだ。

 腹や胸のドレスを穴だらけにするくらい刺されているのならば尚のこと、逃げる背中を刺さないなんてことあり得ない。


「何カ所くらい刺されていますかね先生」

「うん、うん、そうだね。浅いの深いの合わせて十カ所以上はあるんじゃないかな、とは言っても実際は解剖してみないとね。犯人は相当焦っていたんだろうね、スカートの部分とか穴が開いてるだけで体に刺さってない箇所もあるみたいだし。確実に言えるのは素人の犯行だってことと最初の一撃は致命傷になり得たけど死ななかってことだね。防御創が掌や腕にもある。可哀想に痛かっただろう」

「刺し傷から見て犯人は一人ですか?」

「正確には分からないけどね、傷は右手側から抉るようにして何度も突き刺してるって感じだから……同じ条件で別の人物が刺したんでなければ一人だろうね。あと傷はお腹に集中してるね。若いお嬢さんの殺人事件といえば恋愛がらみによる怨恨が大体の動機だからその場合、傷は顔に集中するもんなんだけどねぇ。見ての通り顔は綺麗だから不思議なものだ。君、新顔の君、吐くなら出てってくれたまえよ、現場は汚れなくとも僕の気持ちが汚れてしまう」

「だ、大丈夫ですぅ……」

「ラック、バルコニーの窓を開けてこい」


 一人言をぶつぶつ呟くようにニールへの返事をしていたコンスチンが、顔色を青から白へとどんどんと変色させていくラックに気付き追い払うように手を下から上へと振る。


 初めての現場がこの惨状だからといって逃げ出すなんてそんな気弱でどうするのか。


 刑事としてあるまじき痴態を晒せるわけがない。


 そう思い弱々しい声を上げて気丈に振る舞おうとするラックだが現場で吐かれるほうが迷惑なので、ニールが外の空気を吸えるようバルコニーへと追い払う。

 窓を開ければこの噎せ返るような血の匂いもマシになるだろう。

 ニールの配慮に頷きよたよたと覚束ない足取りでバルコニーへと進んだラックは両開きの窓を開き新鮮な空気を思いっきり吸い込むと鼻にこびりついた鉄の匂いを追い出すようにゆっくりと吐き出す。

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