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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
幽霊屋敷と蝶の羽ばたき
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小説家バタフライ・モルフォ⑥

「ご、ごめん。でも言う必要ないだなんて……俺は君の帰りを心待ちにしてたのに。それに俺達は婚約して……」

「ちょっと止めて!婚約なんてしてないし!勝手なことを言わないで!」

「で、でも……」


 強い口調で否定するシャロンにハリーはショックを受けたように口籠もる。

 サロンを流れる気まずい空気にハリーが俯くようにシャロンの腕を見て、思い出したように自身の制服のポケットに手を入れる。


「そうだ。バングルが壊れかかってたから新しいバングルを作って……」

「止めてハリー!」


 更に怒ったシャロンがハリーがそのポケットからバングルを取り出す前に立ち上がり、睨む。

 その剣幕にハリーはポケットから取り出し差し出そうとした手を止め、ただシャロンを憐れな子犬のような視線で見上げる。


「クリスティー、週末にまた迎えに行くから。待ってて」

「えぇ、お待ちしておりますわ」

「待ってシャロン、送って……」

「いい、一人で帰れるから!ついてこないで!」


 ハリーを拒絶し、去って行くシャロンの後ろ姿を見つめながらハリーは伸ばした手を下へと降ろす。

 どうしてシャロンがあんなに怒っているのか分からないのだ。

 ただ追いかけることは愚策だと理解しているのでその背を見送るしかない。


「ハリー、気を落とさないで。わたくしとの再会をあなたに邪魔されてしまってシャロンは不愉快だったのです……」

「俺より君に重きを置いてることに断固抗議をしたいんだけど」


 しょんぼりと肩を落としたハリーは立ち上がるとシャロンが座っていた場所によろよろと座る。


 シャロンとクリスティア、ハリーとユーリは幼い頃からの付き合いで、一商家だったホーム家はランポール家の引き立てによって財を成したという経緯があり、格別ランポール家の者達を大切にしていた。

 シャロンがクリスティアを他のなによりも大切にし慕う気持ちは幼い頃からのホーム家の教育によって組み込まれており、国家よりランポール家への忠義を果たすことが第一家訓、そして商談の理念として掲げられている。

 だからホーム家の娘であるシャロンがランポール家の娘であるクリスティアを優先することは分かる、分かるのだが……。


 今は同じくらいにウエスト家もホーム家を(ほとんどがハリーの意向で)大切にしているので少しくらいその教育の中にウエスト家を組み込んでくれてもいいのにと、シャロンの冷たい態度にショックを隠し切れていないハリーの様子に、なんら慰めになっていない慰めの言葉をクリスティアがかける。


「……シャロン、最近俺の手紙に返事もしてくれなかったんだ。最初は返事が来る前に次の手紙を送っていたから返事が大変なのかな?って思ってたんだけど……一通の返事も来ないんだ。今までは十回に一回は返事があったのに!俺、なにかしたのかな!?」


 言っていて本当にシャロンに嫌われたんじゃないかと不安になったのか、理由が分からないんだと顔を青くするハリー。

 こんなにシャロンのことを想って大切にしているのにと言わんばかりの、青ざめて気落ちのした様子を見つめて困ったように眉尻を下げたフランと、目を細めて何通手紙を送ったのかと引き気味の表情を浮かべたアリアドネは顔を見合わせると口を開く。


「ウエスト様が最近、伯爵家のご令嬢と子爵家のご令嬢と大変懇意にされているというお噂を私はお聞きいたしました。お二人がウエスト様からのご寵愛を受けていると競うようにお茶会などで吹聴しておりましたわ。ハンカチーフに香水を拭きかけて肌身離さずお持ちになるようにとおっしゃったとご自慢なさっておいででしたが、お心当たりはございますか?」

「私はカフェでバイトしてたときにハリー様が何人もの女の人と一緒に居るところを見ましたけど、絶対最後に向かいの花屋で一輪の薔薇を買って片膝付いてあげてましたよね……日別で彼女でもいるんですか?」


 傷口に塩を塗り込むつもりはなかったのだがハリーが本気でなにが悪いか分かっていないのならば教えてやるのが親切心だと、シャロンに嫌われる要素ならば数多く思いつくフランとアリアドネからの不特定多数の異性との交流という目撃証言に、軽蔑するような冷たい眼差しを向けられる。


 まさに自業自得。

 シャロンの態度は日頃の己の行いの結果ではないかと言わんばかりのその突き刺すような視線に、ハリーの額から冷や汗が滝のように流れ出る。


「ち、違うんだ!そんな目で見ないで皆!俺はただ情報収集を……父上の仕事の手伝いと、ユーリの側近として情報収集をしていただけで……!彼女達との関係に不純なものはなに一つとしてないんだ!」


 プライドばかり高い貴族の子女達はハリーの、宰相の息子でありユーリの側近という肩書きが非常に魅力的に見えるらしく。

 ちょっとしたデートに誘って親密さを演出し、ペラペラと話されるその軽口から細やかな情報を収集して父親に報告するという仕事をしているのだ。


 ハリーにとっては異性とのデートは仕事の一環、ハンカチーフの香水も花屋の一輪の薔薇も経費で落としている物であって、シャロンに贈るプレゼント以外ではポケットマネーでお金を支払ったことはない。

 誰一人として信じてくれない雰囲気ではあるものの、ハリーは心の底からシャロン一筋なのだ。

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