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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
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一日の終わり③

「……どういうこと?」


 さっぱり意味が分からないと大きな深緑の瞳をぱちくりさせるアリアドネに、美しく微笑んでみせたクリスティアはマントルピースに置かれた時計へと視線を送る。


「もう良い時間ね、あまり遅くなるとご両親が心配なさるわアリアドネさん」

「えっ、もうこんな時間!そろそろ戻るわ!明日もメイド稼業頑張らないとね!」

「えぇ、おやすみなさいお気を付けて」


 釣られて追った視線の先に入った時計の針に残りの紅茶を飲み越すと慌てて立ち上がったアリアドネは部屋を出て行く、のかと思えば入り口の扉に隠れるようにして顔を覗かせる。


「クリスティー、その借金とかお父さんの仕事のこととか……本当にありがとう!おやすみ!」


 ちゃんと伝えてなかったから!っと照れくさそうに感謝を口にして走り去っていく軽快な足音を聞きながらその可愛らしさにクリスティアは自然と笑みが溢れる。


「あのように素直だと簡単に人に騙されそうで心配になりますわ」

「明日より教育を徹底致します」

「ふふっ、あまり無理はさせないでね。あの子を本当のメイドにするつもりはないのだから」

「……畏まりました」


 クリスティアがアリアドネを特別可愛がっていることが不満なのだろう。

 返事の前に少しだけ空いた不自然な間に不穏な気配を感じさせつつもルーシーならば上手くやるだろうとクリスティアが窓の外を見れば、ミースとパシィが戻らない娘を心配してか庭先まで向かえに来ており、それに気が付いたアリアドネが二人に抱きつかんばかりの勢いで走り寄っていく。


「わたくしも寝る前に家族に会いに行こうかしら」

「この時間でしたら皆様まだファミリールームにいらっしゃると思います。私はこちらの片付けが終わりましたらクリスティー様のお戻りまで待機しております」


 そんな幸せな家族の光景を見ていればクリスティアも無性に自身の家族に会いたくなる。


 主人の意向を受け、ルーシーがティーカップをサービスワゴンへと片付けていた手を止める。

 ファミリールームは家族専用の私室となるので、火急の用事がなければ使用人達は中に入らないように気を遣っている……待機すると言ったもののクリスティアならば今日はもう下がってくれて良いと言うだろうとルーシーが残念に思っていればそんな表情が顔にでも出ていたのか、クリスティアはクスクスと笑い声を上げる。


「あらルーシー、残りの片付けは他の子に任せてあなたも一緒に来るのよ」

「?」

「今日は最後の時間まであなたと共にいると決めているの。家族の大切なお祝いの日ですもの、わたくしがあなたにお茶を入れるわ」

「は、はい!」


 家族、大切っと告げられた言葉に花が咲いたように表情明るく嬉しがるルーシー。

 先程までアリアドネへと嫉妬していた気持ちは何処へやら……自分が使用人の中で一番なのだと理解し胸を張ったルーシーはクリスティアの後に続き、家族の居るファミリールームへと向かう。


 結局、紅茶を入れ始めたクリスティアを見たエルが羨ましがり、ドリーが自分も飲みたいと言いだし、アーサーが飲んでも大丈夫なのかとそわそわと落ち着かなくなったので、クリスティアは全員分の紅茶を入れることになる。

 この時点でアーサー以外は失念しているが、クリスティアは料理全般全てにおいてその料理の味をおかしくさせるということを……。


 花も含めて手ずから紅茶も入れてもらい、しかも一番茶の栄に浴するルーシーは揺蕩う黄金色の水面を見つめながら、クリスティアに家族を恋しくさせてくれたアリアドネの明日の指導は特別に1時間だけ時間を遅らせてあげようとその紅茶をゆっくりと大切に口に含むと……その苦さに悶絶しながらも飲み干し。

 エルはウグッと短い悲鳴を上げながらなんとか一口胃へと流し込む。

 そんな二人を見て飲むのを止めたドリーに。

 アーサーはきっと腕を上げたのだと信じて疑わず口に含んだ瞬間、思いっきり噴き出す様を見ながら。

 一人だけその紅茶を平然と口にするクリスティアは自分の入れた雑味豊かな味に満足するのだった。

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