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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
何故彼女は赤い悪魔となったのか
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事の顛末③

「この!この悪魔め!」


 そんな穏やかな光景を遮るように、金色の髪を振り乱した少女がユーリの対面方向から騎士達に連れられ現れる。

 今にもクリスティアに飛びかかりそうなその肩を騎士に押さえられたリリアル・ウエルデは現在、王国を賑わせているウエルデ家の醜聞、クリスティアが連れているあの少年の虐待事件の加害者としてその身を拘束されている。


 あの少年の後見人として問題ないと彼らを信用し、国王の名の下に許可を出したということもあり、ミフォードが直接査問のためにウエルデ家の者達を一人一人呼び出しているのだ。

 それは、どれだけ幼くとも例外はない。


 クリスティアはその甲高い声を聞くとベンチから立ち上がり、怯える少年を背に庇うとリリアルを見据える。

 先程まで居たエヴァンはいつの間にか消えていた。


「あんたさえ居なければ!あんたさえ!私は未来の王妃なのに!」


 愚かな主張だ。


 例えクリスティアが居なかったとしてもリリアルを婚約者には据えない。

 他者を虐げ、ユーリの持つ全てを食らいつくそうとする家門に誰が心を許すのだろうか……。


 どれほどみすぼらしくなろうとも、傲慢さと愚かさを纏い続けるリリアルに腹立たしい気持ちが湧き上がり、ユーリが口を開こうとすればその前に、クリスティアがそれはそれはとても美しくそして邪悪に微笑むと自分の胸元に付けていたブローチをその喚く少女の足元へと投げ捨てる。


「庭師との恋物語はさぞ楽しい演劇でしたのでしょうリリアル嬢?わたくし演劇の脚本を書いたのは初めてでしたのよ。こんな小細工に騙されるなんて……お可愛らしいこと」

「あんた!あんた!」

「そちらのブローチは餞別に差し上げますわ。わたくしの庭師を奪わなければもう少し品位のある結末を選ばせてあげられたのに……残念だわ」

「あぁぁぁぁぁ!」


 その床に転がるブローチが意味することを理解し、絶叫しながら騎士に連れられて去って行くリリアルに、もう興味はないといった風に視線を逸らすと自分を見ているユーリにクリスティアが気付く。


「ユーリ様、お父様のお話しは終わりまして?」

「うん……養子の件は滞りなく許可されそうだよ」


 リリアルに向けていた表情から一転して柔らかく笑んだクリスティアにユーリは近寄る。

 クリスティアの背に隠れるエルを見れば黒い瞳を真ん丸にしてユーリを見つめている。


 後数年すれば敵対心丸出しで生意気になるとは思ってもいないのでユーリは努めて優しく笑んでその警戒心を解くことに努める。


「この子が与えられるはずだった領地はどうなるのかご存じですか?」

「一度国で管理体勢を整えた後にランポール家に任せることになると思うよ。あの土地は元々ランポール家が持っていた土地だし……ランポール公爵は君が成人したら真っ先に返すように取り計らうと言っていた」

「良かったわね、エル」


 ランポールという家門を継ぐのならばどちらにせよ彼の物だ。

 分かっているのかいないのか、無表情でコクリと頷いたエルのその頭をクリスティアが撫でる。


「あの庭師の遺体はどうなりましたか?」

「家族は居なかったようだから……然るべき手続きを踏んで共同墓地へと送られるそうだ」

「そうですか……庭師として入り込んだときに王宮へと申請した名は偽名でしたのでしょう?本当のお名前はお分かりになられますか?」

「ロドニーと言うらしい。北から流れてきた移民だそうで姓は無かったようだ。王国では平民にすら姓があるからな、姓が無いことは生活する上で不便だっただろう……彼が住んでいた家を調べたらそれなりの纏まったお金が隠してあったそうだ。それで姓を買うつもりだったのかもしれない」

「ロドニー……あぁ、だから喜んだのね。でしたらどうか墓地の管理名簿にはアドミラルの名を授けてあげてください」


 呟かれたクリスティアの言葉の意味は分からないが、瞼を閉じてその犠牲を痛むように金の髪をふわりと撫でた風を受け止めたその横顔はなんだか寂しそうだとユーリは思う。


「……さっき君を婚約者にと父上に伝えてきた」

「ふふっ、恋や愛のことはもうよろしいのですか?」

「今回のことで劇は所詮劇でしかないと思い知ったよ」


 からかいを含んだクリスティアの声音にユーリは肩を竦める。

 もうあの庭師のような犠牲はこりごりだ。


「……クリスティア、どうかもう二度とあんな危険なことはしないで」

「まぁ、ユーリ様。この度のことで怒っていらっしゃるの?クリスティーとお呼びにならないなんて……」

「……君が望まないとしても、私だけでもちゃんと君の名を呼んでもいいだろう?」


 ユーリの伺うようなその言葉に瞼を開いて少しだけ驚いた表情を浮かべたクリスティアは同時に酷く悲しげに微笑む。

 その表情になぜだか分からないけれども胸が痛んだユーリだったが、名を呼ぶことはこの名も知らぬ後悔を湧き立たせた事件を忘れないようにするための戒めであり彼女を守る指針なのだと胸に刻む。


 そして裁判が始まる頃。

 全てが解決した事件に世間の感心が薄れた頃。

 ユーリの立太子と共にクリスティアとの婚約が発表され、世間を賑わせた。

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