対人警察の登場①
「貴族のお屋敷って僕、初めてなんで緊張するんですけどニール警部。履いてきた靴、昨日応援で駆り出された詐欺の取り締まりしたときに犯人を追っかけた泥靴なんですけど大丈夫ですかね?」
「なにを履いてても関係ないからはしゃぐなラック、こっちだ」
金に輝くドアノブや細かい細工の彫り物が施された豪奢な扉達の並ぶ赤い絨毯の敷かれた廊下を二人の男が歩いている。
一人は黒色の詰め襟に胸と腹部分の左右にポケットのあるジャケット、肩掛けのベルトを腰ベルトと金具で繋ぎその腰のベルトには光沢のある黒色のホルスターをぶら下げている。
ホルスターには指紋登録の無い第三者の取り外しが出来ないようプロテクトの魔法が掛かっており、その中には携帯を義務付けされている銃型の魔法道具が入っている。
黒色で横に青色の線が入ったズボンに薄汚れた革靴を青の混じった灰色の垂れた子犬のような瞳で恥ずかしげに見下ろし、空色に光るピアスを付けた右耳に茶色のショートヘアを掛けた髪の毛を不安げに揺らすラビュリントス中央署の対人警察の刑事であるラック・ヘイルズ巡査部長は、邸とミスマッチな自分の格好に気を取られてそのまま事件現場とは違う方向へと真っ直ぐと進んで行きそうなところをその首根っこを掴んで曲がるべき方向へと隣の男が戻す。
今から向かう事件は誰がどんな格好をしていても意味はないと言うのは、やる気が無さそうに背中を丸め緑色の瞳を呆れたように細める男。
褐色の髪の毛をオールバックにしているこの男は進むべき方向にラックが戻ったのを確認すると首根っこを掴んでいた手を離す。
同じく対人警察の刑事でありラックの上司であるニール・グラド警部は白いシャツに上下黒色のジャケットとズボン、その上に茶色がかった黒色のくたびれたコートを羽織りラックが気後れしている足元とは対照的に綺麗に手入れのされた革のブーツを履いている。
ラビュリントス中央対人警察署から派遣された二人の刑事は角を曲がり一番奥の扉の前で警備隊の騎士が二名、開いた扉を守るようにして左右に立っているのを見付け、分かりやすい事件現場に迷うことはないなとそちらへ向かう。
銀色の鎧に腰に長剣を携えた二名の騎士が赤色のマントを揺らし、右手の拳を胸に当ててニール達に敬礼をする。
「IDの提示をお願いいたします」
左側の騎士が直立不動で求めてきたIDの提示にニールもラックも警察手帳をそれぞれ仕舞っているポケットから取り出す。
全開にされた内側の扉に貼り付けられている掌ほどの大きさの円形で赤くランプのように輝く魔法道具によって本来扉が閉まっている場所には黄色い魔法壁が壁のように映し出されており部屋の出入りは出来ず中も見えない作りになっている。
警察関係者以外の立ち入りを禁止しているその薄い黄色の魔法壁を通るため赤い魔法道具へと個人IDとなる魔法石のはめられた警察手帳をニールが掲げれば魔法壁に白い文字の羅列が流れ、そして通過許可の緑の文字が真ん中に現れるとニールはその中へと躊躇いなく入る。
次いでラックが同じように手帳を掲げて通り抜け、そしてすぐに足を止める。
「うっ!」
「これは……酷いな」
中に入った瞬間凄惨な事件の現場にラックは呻き声を上げニールは顔を顰めている。
目に入るのは、血だ。
血。
血。
血。
血。
事件の現場だと知らなければそのあまりにも作り事のような光景に、そういうデザインの部屋なのかと錯覚してしまうかもしれないが、床を這う赤も、壁に飛び散った赤も、ソファーの背に付いた赤も!
それは紛れもなく本物の血なのだ!